若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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同じ10代でも差異がある
~将来のことは…何とかなります~
工藤 啓(くどう・けい)
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ここ数年、10代の学生からtwitterやFacebookで直接連絡をいただいたり、スタッフや友人、知人のつながりから同じく10代の若者とじっくり話をすることが増えました。みなとても素直で明るい若者です。とは言え、将来や社会に対する関心や取り組みという側面から見ると“これほどまで!”というくらい差異を感じます。
地方の高校に越境し、都内の大学に通うことになった男性は、私のような15歳以上も年齢が離れた大人と話をした経験がほとんどないらしく、緊張しながら話をしました。社会問題や政治のこと、時事的な話題は「わかんねっす」と笑顔で答えます。一方、AKB48の話や、流行りの音楽など彼の身近な話題となると凄く楽しそうに、また、丁寧に話をしてくれます。
私が、「やっぱり友人との連絡はtwitterとかFacebookとか使ってやりとりするのかな?」と尋ねると、「twitterはやってません。Facebookって何ですか?」と言います。同じ10代とは言え、それらのソーシャルメディアを使いながら、友人とのコミュニケーションのみならず、さまざまな情報を取るタイプの若者と話をすることが多かったものですから、ちょっと驚きました。
もう少し将来のことについて話を聞いてみようと、卒業後の進路や、仕事を含めたキャリア感についても聞いてみましたが、いまのところは何も考えていないようです。「将来のことは…何とかなります」と、ボソッと言うだけです。中学や高校でもキャリアに関する授業はあったようですが、あまり興味を持てないものだったそうです。また、自分の将来について友人や家族と話すこともないらしく、若干不安ではあるものの“それなりに何とかなる”と言うのみでした。
最初は何も考えてないのかなと思ったのですが、不安になるくらいですから考えているはずです。ただ、周囲に相談ができる環境もなく、何からどう考えていいのかもわからない。そうこうしている間に時間だけが経ってしまっている状況に焦りばかりが募るも、それを考えようとするだけで苦しいため、考えることから逃げてしまっていることを、彼は自覚していました。
何かお手伝いできることがあったら連絡してくださいねと伝えたところ、数日後に長いメールをもらいました。そこには、「周りは僕と同じくあんまり将来のことを話すような感じではないので、またお話しできますか?」とありました。彼は将来について考えることから逃げているのではなかったのです。考えるための環境、相談できる“誰か”を求めているのです。たまたま彼にとっては私であったわけですが、もっと大人の側が次世代の将来について、多少“おせっかい”であったとしても、積極的に関わってもいいのだと改めて思いました。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか