若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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7万9千人が大学を中退
~進学希望先の大学の日常を見る~
工藤 啓(くどう・けい)
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大学などの中途退学者に占める退学理由で最も多いのが「経済的理由」で、その割合は20.4%であることがわかりました。学ぶためにかかる費用の多くを家庭で負担する私たちの社会では、個人(家庭)が負うリスクがとても高いということです。高校卒業後に進学するひとがどんどん多くなっている一方で、未来からの借金である奨学金利用者も近年ものすごく増加しています。
中退者の5人にひとりが経済的に苦しいために学びの機会を失っています。しかし、もう少し視野を広くとってみると、大学を途中で中退する学生の約80%、5人のうち4人は「経済的理由」以外の理由で大学を辞めています。
なかには留学や起業のために大学をポジティブな理由で辞める学生もいるでしょう。私も留学するために大学を辞めました。そういう前向きな決断は個人の選択としてよいと思います。しかし、経済的理由でなくとも、大学で学びたいけれども辞めなければならない理由で中退している学生もたくさんいるわけです。
他の理由も細かくはたくさんあると思いますが、入学してから「こういうイメージではなかった」というミスマッチや、教員や先輩、友人らとの人間関係などに悩んだ結果として中退したひとの話はよく聞きます。
ミスマッチが起こらないよう、高校生に向けたオープンキャンパスなど、大学を知ってもらう機会も準備されています。最近では大学の日常、当たり前の一日を見てもらう取り組みも広がっています。
NPO法人NEWVERYという団体は、大学と一緒になって「WEEKDAY CAMPUS VISIT」を行っています。それ以外でも、気になる大学があれば訪れてみるというのもいいかもしれません。高校の先輩がいるのであれば案内してもらうとより安心してキャンパスを知ることができます。
人間関係がどうなりそうかということは、なかなか入学前に確信を持って「大丈夫だ」と思えるようにするのは難しいと思いますが、やはり、普段のキャンパスを見ることで、雰囲気をつかむことはできますし、進学希望先の大学に進学している先輩などから直接話を聞くということが、安心材料となるのではないでしょうか。
不本意な中退の可能性を強くもって大学へ進学する学生はほとんどいないと思います。その一方で、約7万9千人が中途退学を選択している状況を見ると、進学前にできるだけ「ここなら」と思える大学と出会っておくことは、自らの大学生活をよいものにするために大切なことだと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか