若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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7万9千人が大学を中退
~経済的理由による中退が5人にひとり~
工藤 啓(くどう・けい)
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先日、文部科学省の調査が発表されました。2012年度に大学などを途中で辞めた学生は2.7%の約7万9千人だったそうです。そして中退理由で最も多かったのが「経済的理由」ということです。中退者の5人にひとりがお金の問題で大学を辞めています。
大学進学にあたって中途退学を前提に進路を考えている高校生はほとんどいないと思います。在学中の生活費や学費を保護者が出すにせよ、奨学金などを活用して準備するにせよ、途中で大学に通えなくなる可能性を考えることも少ないのではないでしょうか。
周囲に大学進学希望者ばかりだと、自分も「大学に進学するんだろうなぁ」と考えます。もちろん、真剣に将来を考えるなかで、大学で学ぶことが重要であるという結論に達することもあるでしょう。しかし、卒業までにかかる生活費や学費について調べたり、先生や保護者と相談している学生はあまり多くない印象があります。
それはお金のことについて普段から話をしないから持ち出しづらい話題かもしれませんし、お金のことを子どもに心配させるなんてよくないと考える保護者から、とにかく「心配しなくていい、何とかするから」と諭されるかもしれません。
学費について心配することもなかったけれど、両親の収入が突然減ってしまうこともあります。仕事を失うことだってあります。将来のことは誰にもわかりません。だからといって、これだけ経済的理由で大学から離れなければならない大学生がいるわけですから、何も考えずに安心して大学に入学すればいいとは言い切れない状況になっています。
家庭の事情はそれぞれ異なりますが、少しだけ大学入学後の4年間にかかるお金のことについて頭の片隅でも考えてみる、ということが大切だと思います。いまは必要ないかもしれませんが、奨学金について調べて、知識や情報を持っておくこともできるはずです。
本来、学びの機会を担保することは社会の責任です。少なくない数のひとたちがそのために努力をしています。一方、残念ながら社会が変わっていくには時間がかかるものが多いです。数か月後や数年後に大学進学を考えているのであれば、まずは進学後の生活費や学費について“気にしてみる”ことだけでも始めてもらいたいと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか