そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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学部・学科選び、その先
~進学後に迷わない学生は少ない~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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東洋大学の社会福祉学科で教えることになったとき、真っ先に考えたのが、「高校生時代に福祉分野で活躍することを考え、この学科を選んだ学生は就職活動や将来への迷いは少ないのではないか」ということでした。

私自身は、心からやりたいことがあって学校や学部、学科を選んだわけではなく、むしろ、「そう言えば新聞記者ってかっこよかったな」と思い起こし、それならばとマスコミ系の学部や学科を探しました。高校の時点で確固たるものはまったくありませんでした。

実際に講義が始まってから理解できたのは、社会福祉士という国家資格を目指すコースを選択するのは学生の半分くらいであったこと。もうひとつは、福祉分野の企業や団体に就職したいと考えている学生も、私が想像していたよりもずっと少ない。もっと言えば3年生になっても迷っている学生が多いということでした。

先日、履修した学生に「福祉」という分野と何か他の分野で関心ある組み合わせはどのようなものがあるかということを聞きました。アイディアで目立ったのは、日用品から街づくりまで誰もが暮らしやすい状況を作るための「デザイン」。最先端技術による福祉分野にどう変化を起こしていくのかという「科学」や「IT」。低賃金重労働というイメージがある福祉分野における「雇用」「労働」の在り方などに関心の広さがうかがえました。

第8回の講義では、社会福祉士としてのキャリアや現場での実践についてゲストに講義をしていただきました。その女性は経済を専門で大学を卒業されました。母親を亡くしたことをきっかけに児童養護に関心を持ち、福祉分野でアルバイトをしながら社会福祉士資格を取得するために専門学校に入学。いまは困窮家庭の子どもたちや無業の若者を支援しています。「福祉関係の仕事で活躍するのに資格は絶対ではない。一方で、福祉分野に絞って就職活動をしたところ、(福祉分野の)学位も資格もないことで、採用されないことが多かった」という話もありました。

その日の感想シートでは、「一般企業に就職を希望しているが、いつ福祉関係で働きたくなるかわからないので、国家資格も取得します」というものや、「会社や仕事を変えることはできるということで、いまは決めた道を進もうと思います」と、不安や迷いが吹っ切れたというコメントが多く寄せられました。

いまは将来の生き方や、就きたい仕事につながりやすい学部や、どのような仕事を選ぶにしても使えそうな理由から進学先を決めるような考え方も多くあるようですが、専門職に近い分野を選んだ大学生でさえ、少なくない学生が2年生、3年生で迷うわけです。前編でも書きましたが、進学後、進路に迷わないということは少ないでしょうから、未来や将来を意識し過ぎて選ぶことができないということであれば、いまの興味や関心で進路を選択してよいと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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