若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
84-184-1
親とのコミュニケーション
~親が聞きたいこと~
工藤 啓(くどう・けい)
公開:
更新:
育て上げネットでは、母親向けの支援事業「結(ゆい)」を行っています。お子さんが学校や職場などでうまくいかなくなり、親子の関係が難しくなったひとたちのご相談を受け、一緒に解決方法などを見つけていきます。
先月、この結の活動が漫画(「子どもがひきこもりになりかけたら マンガでわかる 今からでも遅くない 親としてできること」上大岡トメ、KADOKAWA/メディアファクトリー)になりました。もし少しだけ興味があればこちらのコミックエッセイ劇場にて数話無料で読むことができます。
高校生くらいになると親とのコミュニケーションが面倒になることがあります。私自身は、普通に会話もするけれど、なんとなく自分の考えや価値観について語るのを避けるようになりました。例えば、ニュースで選挙の報道があり、「どこにいれても変わんないよ」と言うと、父親から「それでも投票することに意味があり…」と返ってくる。
いまはそのような返しから話を膨らませ議論したりもしますが、対して深く考えることもなくポロッと言ったことに反応されることがとても面倒でした。面倒なことになるのが嫌なので、差しさわりのない会話で終わらせていたように思います。
それでは親の側がどう思っているのかというと、何もかもを知りたいわけではないようです。大別すると、ひとつは、悩みや問題を抱えていないかと心配なので、「大丈夫そうだ」と思える話を聞きたい。もうひとつは、どんなことを聞かれるのが嫌なのか。何を言われるのがうっとうしいのかが知りたいと言います。
極端ですが、毎日「勉強しなさい」と言われれば、その言葉は聞きたくなくなります。一方、まったく何も言われない、聞かれない無関心の状態になれば「もう少し話を聞いてほしかった」「とても寂しかった」とならないでしょうか。私が出会ってきた若者からは、多かれ少なかれ親に、ああしてほしかった、こうしてほしかった、ということがポツポツ出てきます。
それを親御さんに伝えると、「そう言ってくれればよかったのに、全然気がつかなかった」となります。実際には自分の気持ちを話すことも、相手の気持ちを聞くこともなく、どちらかというと“察してほしい”スタンスであったのかもしれません。少なくとも私自身の経験だけで言えば、聞かれれば答えるけれどそうでなければあえて言うわけでもない、でした。
親は親であるがゆえに、また、自分が子どもと同じ年齢であった頃とは置かれた環境が全然違ってしまっているがゆえに、いろいろ知りたいのです。親孝行しましょうと言いたいわけではありません。ただ、さまざまな事故や事件の情報が耳に届きやすくなっているいま、自分の子どもの身を案じる、心配する気持ちに対して、ほんの一言、二言くらい親が聞きたい、知りたいことを子どもの側から話してみてはどうでしょうか。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか