そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

84-2

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親とのコミュニケーション
~親に伝えてほしいこと~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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親子のコミュニケーションにおいて、親が知りたいのだけれども子どもが話してくれない。または、子どもに知りたいから教えてと言うことができない。そんな親側の事情を二つに絞り込みました。ひとつは、おおまかにでもわが子が「大丈夫」な状態であることを知りたい。もうひとつは、何を言ってほしくて、何が言われたくないことなのかを理解したいのだと話しました。

当然のことですが、親との話心地の良し悪し、その内容は個々人によって違います。部活については触れてほしくないけれど、成績については「オッケー」ということもあれば、学校生活はいいけれど、髪型や服装のことだけは放っておいてほしい場合もあるでしょう。そんなことをいちいち考えているのが面倒だから、親との話は最小限に留めておくのがラクだと感じるのかもしれません。

あまり自覚的ではありませんでしたが、私自身も高校生のときは親との距離が遠くなっていたと思います。面倒で、時には無意味に腹が立つようなことになるくらいであれば、初めから話をしないことで安定を得るのも一案でしょう。誰よりも信頼、感謝する両親に負の感情を持つ必要はありませんから。

そんな時期であっても、いや、そうであるからこそ親には伝えてほしいことがあります。それは進路における希望や期待です。卒業を待たずして高校を離れたいと思っていることも、卒業後に進学したいこと、働きたいこと。海外への留学や旅を考えていること。

高校を卒業したら大学へ進学するものだと思っている親に、突然、「卒後は就職する」と言えば驚くでしょう。「なぜ」「どうして」と繰り返し聞いてくるかもしれません。逆に、就職するものと考えていたところへ「専門学校に行く」と言われたら戸惑う親もいるかもしれません。以前、ある女性は高校3年生になり、当たり前のように大学に進学すると親に伝えたところ、進学費用を準備していなかったと親から言われました。親の言葉に子どもも驚き、「そんなこといまさら言われても困る」と途方に暮れたケースがありました。

状況的にも給付型の奨学金取得は難しく、経済的にも学費を支払うことができなかったため、その女子学生は卒後アルバイトをしながら学費を貯め、一年後の進学を目標にすることになりました。もう少し早く伝えていたら親御さんもいくばくかの準備ができたかもしれません。奨学金を獲得しなければ進学が難しいと知っていれば、高校生活を夢の実現、現実とのすり合わせに使うことも選択できたでしょう。

しかし、なんとなく親子ともに「(親)就職するだろう」「(子)進学したい」と思い、相手も自分と同じ考えであると思い込んでいたことがギリギリでそうではないとわかり、希望の進路、期待する未来を選ぶことができなかった話もありました。

わざわざ親と話をしたいと思えないかもしれません。自分のことを振り返っても、親との距離を広くしておきたい気持ちもわからないでもありません。しかし、学校から離れるにあたっての「次の選択」の多くは「親の支援」も無条件で入れているのではないでしょうか。日常生活の細やかな部分を無理に伝える必要はありませんが、親の協力を前提としている近い未来のことはしっかりと親に伝えておいてほしいと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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