そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

99-2

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チャレンジしてみる
~私の「好き」を言葉にする~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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8月の暑い日、私は中学生二人とともにJFAハウス(日本サッカー協会ビル)に行きました。高校受験を控える二人の男子学生は、サッカーに明け暮れた日々が勉強に変わったことに苦笑しながらも、言葉の端々から「サッカーが本当に好きなんだな」ということがわかります。

JFAハウスには、Jリーグの村井チェアマンやさまざまなプロサッカークラブや企業、NPO関係者が集まって会議が開かれます。二人にはオブザーバーとしての席と資料が準備され、「おっ、中学生が来ている」ということで、会議参加者の方々が声をかけてくれます。

日本のサッカー界を支えるひとたちを前に、ガチガチになった二人は名刺を渡されてもどうしていいのかわからず、会釈をして受け取っていました。緊張感がこちらにもしっかり伝わります。しかし、そこで交わされるのは当然サッカーの話であり、彼らが大好きなスポーツについてです。

好きなチームはどこか。好きな選手は誰か。ポジションはどこだったのか。そんな質問に対して一生懸命言葉をつむぎます。会議では日本サッカーがどのようにホームタウン活動を促進させ、社会と連携をしていけるのか。どのようにサッカーというスポーツが社会に貢献できるのかが真剣に話し合われました。

最後に、「今日は中学生が二人来てくれたことにより、いつも以上に緊張感があり、また、彼らのようなサッカーを好きな中学生でも理解できる平易な言葉を意識していた。このような場に来てくれてありがとう」とチェアマンが言われました。

そして、今日の感想を求められ、一斉に関係者が二人を見ます。連れてきた私もドキドキしました。このような環境で突然コメントを求められたら言葉が出てこないのではないかと。しかし、二人はしっかりとした態度、言葉で感想を伝え、彼らがどれだけサッカーが好きなのかが伝わるものでした。

日本サッカーの未来に向けた重要な会議に参加してみることだけでも大きなチャレンジであるのに、そのような場でコメントを求められるとは想像しないのではないでしょうか。それでも彼らが立派に発言した根底には「サッカーが好き」があり、だからこそ懸命にその想いを持って言葉にしていったのだと思います。

チャンスはいつ訪れるかわかりません。それでもチャンスが目の前に現れたとき、そこから逃げ出さず、私の「好き」をしっかりと言葉にすることで新たな学びや経験の獲得につながります。本当に素晴らしい二人のチャレンジでした。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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