そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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「負担のない入口」で
支援利用を促す

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

十数年ぶりに大きな病院に来ました。前は「さーん」と呼ばれる感覚が強かったのですが、受付で渡された呼び出し機が鳴り響く様はさながらフードコードのようです。待ち時間の長さで空腹な人が集まっているのもなんとなく似ています。

こういう場では「みんないろいろ事情があって生きているのだな」と忘れそうになっていることを思い出します。街で通り過ぎていたら感情が動くこともないだろうに、病院では何らかの背景があることがわかってしまいます。

「ひきこもり」や「ニート」と呼ばれる若者の支援プログラムを実施する私たちのところには、「そちらに行きたくない」という方がおられます。「入っていくところを知人に見られたらどうしよう」と不安になるのだそうです。特に地方でお困りの方からはそういったお声を聞きます。

病院に入っていく知人をみたら「あれ、どこか悪いのかな」と思いますし、ちょっと心配になりますよね。それが、病院ではなくてよく知らない支援機関では、いろいろと詮索したくなる気持ちを持つ方がいるのも理解できます。

ただでさえ、周りの力を頼るようなことではない、自分でどうにかしないといけないと考えておられる方が多いのに、入り口に「ひきこもり」と露骨に書いてあると、中へ踏み込みにくくなるという話も聞きます。

そうした抵抗感と向き合ってきたなかで比較的うまくいっている手法があります。ひとつは挙げたように露骨な名称を使わないこと。「支援」や「サポート」のような避けられる言葉を使わないようにもしています。

ファーストコンタクトをオンライン化してからも久しいです。初回の相談や説明会はビデオ通話で参加できるようにしておくと、顔出ししなくてもOK、場合によっては途中退出もできるようになっているので気楽さが増します。予約をフォーム化したので電話しなくてもよくなったのもうまく機能しました。

今も大抵の支援機関は「初回は電話で」というものが多いのですが、「普段、電話なんかしないじゃないか、何か怪しいことしてないか」と親御さんに詰め寄られて嫌だったという話も聞いたこともあります。身近な親でも味方でないこともあるので、誰にも知られずにできるというのは大事なんですね。

話はそれますが、データによれば20〜30代の7割以上は「電話が苦手」なのだそうです。私も、この病院の予約は初診が電話でないとダメで、結構緊張しました。普段電話しない相手と話すのは勇気がいることなんです。病院だから意を決してすぐかけましたが、もうちょっと先延ばしにできることならギリギリまで電話しなかったかもしれません。

私たちのところに来た多くの若者は、最終的には「相談してよかった」と言ってくださるのですが、同時に最初は「ひとりでどうにかしないといけない」と考えておられます。その点を考えると、周りや支援者にも迷惑をかけない、ひとりで完結できる「負担のない入口」になっているほうが良いですね。

支援に限らず、多くのサービスが負担のない入口を作っていますよね。美容院もネット予約、チケット購入や洋服買うのだってオンラインショップです。それに慣れている方に使いやすいサービスでありたいものです。

それにしても、病院は待ち時間が長いです。原稿を書き終えてしまいました。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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