若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
21-221-2
大切なのはポジショニング
~後編~
工藤 啓(くどう・けい)
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いまの若者は、とても人間関係を気にしています。出る杭は打たれるから個を埋没させる、というのとは若干違う印象を受けます。前日本代表監督にイビチャ・オシム氏が就任したときは“ポリバレント”という言葉が流行りました。複数の役割(ポジション)をこなせる能力、という意味ですが、何かひとつに突出しているだけではなく、状況に応じた役割もこなせる能力が求められたのです。
まさに、若者が意識する“ポジショニング”をうまく取れる人とは、ポリバレントな人を指しているのかもしれません。高校生の生活に詳しい方から聞いたのは、「いまの高校生はクラスをいくつかのグループに切り分けて考え、どのグループに入ることで自分がラクな位置にいられるかを考えている」ということでした。
誰もがポリバレントなわけではありません。場をリードするのが得意な性格の若者が、必ずしもコーディネート役をこなせるとは限りません。無理にコーディネート役を担おうとするとストレスになってしまいます。そういうときには、絶対的なリーダーがいるグループから、リーダー不在と思われるグループに移り、自分がストレスを感じない位置につくわけです。
ポジショニングへの意識は、自分という存在を際立たせるためではなく、自分を守るための行動ではないでしょうか。
学校裏サイトなどが社会問題として取り上げられていますが、誰にどこで何を言われたり、書かれたりするかわからない世界にあって、この行動は、常にまとわりつく不安から脱出することであり、安心できる環境を作ることでもあるのです。
ポジショニングは、スポーツの世界や、業務を円滑にこなすためと割り切れる大人社会(職業社会)だけのものではなくなっています。若者(子ども)はそんなことを気にしなくてよい、という言葉は現実的に意味を持たなくなりつつあるようです。もし、若者(子ども)から人間関係の悩みや不安を打ち明けられたらどのように答えればよいのでしょうか。そのときに備えて、大人も自分なりの考えを整理しておいたほうがよいのかもしれません。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか