そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

23-1

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働き始めた若者
~前編~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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先日、某メガバンクの新人研修を引き受けました。5名程度の新入社員を1グループにして、老人ホームや障がい者施設などで数日間を過ごさせるというもので、若者の自立を支援する団体はひとつだけでした。「最近の若者は受け身で、主体性に欠けている」などと言われることもありますが、研修に訪れた彼ら/彼女らはそんな風評とはまったく正反対の若者でした。

日中は、「育て上げ」ネットに通う若者と一緒に研修現場に入りました。彼ら/彼女らの、初めての作業に対する理解度やスピードは速く、職員も驚いたようです。周囲との円滑なコミュニケーションを取る力もしっかりと備わっており、「空気も読める」との報告もあがってきました。

研修終了後の小一時間、彼ら/彼女らと懇談をするというのが私の役割でした。特に何の話をすると決まっていたわけでもないので、いくつか質問をぶつけてみることにしました。一つは、「皆さんの研修先は、介護や福祉、自立支援団体などが大半なようですが、会社はなぜそのような場所を研修先として選定したと思いますか」というもの。

ある男性は、「自分たちはまだ社会人になって一ヵ月半しか経っていません。さまざまな方とふれあい、社会を知るためだと思います」と答えます。ある女性は、「どのような人でも、私たちのお客様になり得るわけですから、少しでもそれぞれの実情を知っておくためではないでしょうか」と話してくれました。

もう一つ、「NPO法人の中にも、自主事業をしっかりと構築し、国や自治体と連携した事業を営んでいるところはありますが、運営資金を調達する場合、銀行から借りることが難しく、それ以外の金融機関と取引をする例が多いのはなぜだと思いますか」という質問をしてみました。

別の男性は、「社会全体がNPO法人をボランティア団体として認知しているからではないでしょうか」と答え、別の女性は「NPO法人は“想い”や“人柄”を前面に出している印象がありますが、貸す側としては、財務状況が大切ですから、二本柱で交渉してみたらいいのでは」と提案してくれました。

そもそも正解など存在しない質問へのレスポンスの早さもさることながら、尋ねられたことに答えるだけではなく、積極的に提案するようすを見て、彼ら/彼女らが受け身で主体性に欠けているとは思えませんでした。私の時間が終わった後、「研修終了報告会があるので、今日の振り返りとブレインストーミングを早速したいのですが、ここを少しお借りできますか」との依頼には、驚きと頼もしさすら感じたほどです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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