そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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高校が抱える進路指導課題
~前編~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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先日、北海道の某公立高校で授業をしてきました。教室の壁には、ハローワークからの求人募集がポツポツと張られていました。休憩時間に、進路指導担当の先生と卒後に就職を希望する生徒の実情についてお聞きしたところ、地域の高校が抱える進路指導課題の厳しさを痛感しました。

いま、キャリア教育という形で早い年齢から将来のキャリアを意識付けするような取り組みが広がっています。どのようなコンテンツが実施されているかというと、比較的、将来の「仕事」を意識したものが多い気がします。これはとても大事なことです。

しかし、私が訪れた場所では、就職を希望する生徒の数よりも、高校生に対する求人が極端に少なく、また業種も限られています。食品系、清掃系、サービス系、遊戯系で90%くらいを占めており、ただでさえ少ない求人数に加え、職種も限定されています。つまり、選択の余地がないのです。

小さいころから「やりたい仕事」「希望の職種」を一生懸命考えてきても、実際にある仕事(選択肢)はほとんどない。だからといって、小学校、中学校の段階から、「この地域で暮らしていきたいひとには、これとこれしか仕事がありませんよ」というのは、青少年にとってこの上なくつらいことでしょう。

このような厳しい就職環境のなか、先生は生徒とどのような話をしているのか、私は聞いてみました。先生がおっしゃったのは、「やりたい仕事については聞きません。ほとんどそういう仕事はないから聞いても意味がないのです。その上で私が生徒と話すのは、どこまでを就職先のエリアとして考えているか」ということです。

生徒が就職先を探すにあたり、就職エリアが地元限定なのか、札幌や函館まで出られるのか、本州も視野に入れているのか。それが決まって初めて職種や職場の選択肢が見えてくると先生はおっしゃるのです。

生徒は、いまあるすべての仕事から自らの価値観に沿って希望の職種を探していくのではなく、まずはどの範囲までが就職先エリアなのかを決めなければなりません。このように、地域によっては、地元で生きていきたいという希望の陰に、仕事を選べないという非常にキツイ条件がともなう場合もあります。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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