
若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
209209
「AIを使う」を実践して
若者の可能性を拓くチャレンジ
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
AIを使って仕事をするのを小さな目標にしています。たまにこちらでAI関係のことを書いていますが、以前書いていたころは、まだ「使う」こと自体の負担の方が大きい印象でした。
たいていの仕事が誰かと相談しながら進めていくことが多く、ともするとAIの意見がもうひとつ増えて、コンセンサスをとるのがむしろ面倒になるときすらありました。
こうしたエッセイも、結局アウトプットは自分の頭の中にあるものをまとめているわけなので、AIを使ってもさほど効率化がされず、せいぜい校閲が楽になるくらいのことでありました。モノを書くときの苦しみはさほど変わらなかったのです。
一方でAIの進歩は目覚ましいものです。人間が生み出してきた情報資源はすでに枯渇が近いのだそうです。有史以来積み重ねてきたものはもう食べつくして、これからの機械学習はどうするんだという状況なのだとも聞きます。
少し前まで「まだまだ」の評価だった段階から進化していて、例えばちょっとしたライティングでは、私のものとAIが生成した文章を並べてみると、AI製が採択される割合も高くなってきました。あえてどっちがどっちと言わずにこっそり実験しているのですが、半分くらいはAI製のほうが好感触⋯なんていうときもあります。自分のライティングに一定のアイデンティティを持っていた部分もあるのですが、この数か月、自尊感情はそれなりに揺り動かされています。
そんな敗北宣言間近の原稿を書いていたら、X(Twitter)ではAIの新たな話題がトレンドにあがってきました。中国の企業が開発したそれは従来のアプリよりも格段に低コストで開発され、それでいて既存のフロントランナーに負けない精度で出力されるのだそうです。
開発環境やコストの差にばかり注目されているのですが、敗北した私にとっては自分の作業能力が値踏みされたようで、負けた上にこんなに安くなってしまうのかと外国の開発競争などどうでもよくなってしまいました。
さて話は変わりますが、ある若者にAIを使う仕事を中心に据えた働き方に挑戦してもらっています。AIを得意とするプログラムコーディングの分野で活かして、WEBアプリの修正を依頼しています。
その若者にとってプログラミングは独学で少し経験したことがあるくらいで、何かのシステムを作ったりしたことはありません。WEBアプリの開発については今回が初めてです。
最初の1か月は開発環境を整えるところからやってもらうことにしました。どうしたら環境が整うのか、どういったアプリやシステムを使うといいのか、AIに相談しながら、自分でも情報収集を繰り返し、4、5日程度の作業工数で整えてくれました。未経験者であることを踏まえれば充分だと思います。
次の1か月では、アプリの運営をしているスタッフから要求された修正を進めました。淡々と作業は進んでいきます。私も若者もコードがまったく読めないわけではないですが、一部はブラックボックス化しているところもあります。ただ、結果的に要求した機能修正が達成されバグもないとなると、それで問題ないのではとも考えています。
チームで開発したり、プログラマーならではの作法などもあると思いますが、現状では新たな不具合が起きたらまたAIに聞き、丸ごと入れ替える⋯という工程を踏むわけで、実はさほど重要な課題でないとも考えています。
ひとつ言いたいのは取り組んでいる若者が、すべてをAI頼みにはできていないということです。AIをうまく使う方法を見つけて資料を読み込んだり、指示の出し方を工夫しています。ある意味、これから学ぶべきスキルはこれなのかもしれません。現代社会でワープロを覚え、パソコンを覚えネットを使えるようになり⋯と進化してきたように。
若者の奮闘は今後もまたお伝えしたいと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)