そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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音楽ライブから考える
若者の権利と平等

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

先日、育て上げネットが運営している支援拠点から若者が集まり、音楽ライブが開催されました。会場は東京・立川で有名なライブハウスBABEL -THE ROCK TOWER-で、運営スタッフなど含め総勢90名ほどが参加、3時間のライブで4団体がステージに立ち、楽曲を披露しました。

いわゆる3ピース・4ピースのバンド構成が多いなか、ギター・ボーカルのソロやデュオ、トランペットやオカリナまで登場。多様な場を温かく作っていただいたスタジオの方と来場者のみなさんには感謝をお伝えしたいです。

リハーサルの段階で普段の彼らからは感じえない熱量に驚いてしまいました。それぞれ相当な練習をしてきたことがわかる、しっかりとした音が会場を包みます。

日々、自己主張があまり得意でない、気持ちの発露を苦手とする方が多いと、私も思いこんでいるのでしょう。この方法だったら自己表現ができると自信をもって発される一つひとつの音と声に感情が高ぶります。

本番でお客さんを前にした彼らがどんどんノッていくのもはっきりと分かります。ステージに上がり、まだ緊張と不安を感じる表情で始めた1曲目と、ステキな声援を受け取って、解放された3曲目とでは明らかに声の通りが違います。どんな音をだしても大丈夫だと気持ちを乗せてくれたお客さんでした。

楽器が奏でる一音は誰にとっても平等です。背景に何を抱えていたとしても、どんな状況にあったとしても、弦をはじけば音は出るし、スティックを振り下ろせばリズムを作ることができます。

このライブが決まったのは夏ごろですが、同じころからさまざまな支援拠点で音楽の話題が上がることが増えてきました。カラオケ部を持つ拠点もあり、活動日はいつにもまして利用者が多く来所しているのだそうです。

音楽の何が彼らをそこまで惹きつけるのか、小学校の音楽の時間、自分の歌声を人に聞かれるのもイヤだった私にはわからない部分も多いかもしれません。単純に音を出せる場所が少ないということもあるだろうし、それでスタジオを借りようものならお金がかかるというのもあるのかもしれません。その本質の部分はこれからの研究テーマと言えるでしょう。

若者はよく「言語化の難しさ」を吐露してくれます。決して若者だけでないでしょう。そういう本が、ベストセラーとして平積みされた本屋もよくみます。言葉にするのは難しい。だけど、その気持ちを音楽化するのは言葉よりも容易なのかもしれませんね。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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