若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
207207
新しいSNSと
コミュニティに入り逃す孤立
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
2024年12月に「mixi2」ができました。名前を聞いて学生時代の黒歴史を掘り起こされるのではと戦々恐々としていましたが、まったく新しいサービスでまずは一安心しました。文字のサイズ変更や多様なエモート(感情表現)をつけることができるオープンなSNSはありそうでなかったというか、あえてこの時代にテキストに遊びを加えたのは斬新だなと思います。
初代mixiから続く機能として「コミュニティ」があります。趣味や特定のカテゴリについて語りたい人たちが集まっていて、そこでテーマに沿った話題が展開されています。リリースから2日目、試しに「NPO」と調べてみると、すでに50人以上のユーザーが集まるコミュニティができていました。マーケティング・広報関係者というところは1,000人を超えています。たった2日でここまで展開しているのかと驚いてしまいました。
私はもともと、この「コミュニティ」というのがあまり得意ではなかったのです。そもそもSNS上で人とつながるのが正直、億劫なところがあり、こうしてサッと輪を作って人を集められるような人たちがいるのだ、と別世界のような感覚を持つのです。
そんな折、大学入学後に孤立した若者の話を思い出しました。あえて使いますが「普通」の高校生だったという彼は、大学入試を終え、晴れて4月に大学へ進学しました。さっそく周りにいる同期生を見渡すと、すでに仲良さそうな人たちが多く、うまくその輪に入れなかったのだそうです。
あとからわかったことですが、実は入学前にLINEで「●●年入学・△△大学・■■学部」というグループができていて、SNS上で参加を呼び掛けていたり、すでに遊びに行くような交友関係が進んでいて、置いていかれてしまったというのです。
もちろん、そうしたSNSのつながりだけがすべてではありませんが、彼にとってはその遅れがショックになりました。クラス制のようなイメージで同じメンバーで講義を受けることも多かったそうで、馴染めない環境が続いてしまったのだそうです。
結果、彼は1年生の夏休みに休学を決めました。こういうケースはチラホラ聞き及ぶことがあります。コロナ禍のときリモートでの講義を受けていて、通学できるようになって、いまさらサークルに入るのもな⋯という方もいらっしゃいました。
コミュニティはその圏内にいる人にとって重要なつながりです。大小はともかくあったほうが良いし、社会生活の支えになります。そういったコミュニティ機能として注目される居場所支援を展開する私たちにとって意識すべきは、そこにどれだけたくさんの若者が来所しているとしても、逆に来られない若者が同時にいるということだと思います。
屁理屈のようにも聞こえますが、やはりサッカーが好きな若者に「ボードゲームをいっしょにやろう」とか「ギター弾いてみよう」は噛み合わない可能性があります。コートを借りるからボールを蹴りにおいでと伝えたほうが気持ちは軽やかだろうし、音楽が好きな若者なら好きなだけギターを弾いていいよとスタジオに誘導したほうが、きっと心が動くのではないかと思うのです。
2025年も若者との接点を作ることは支援者にとって重要です。就職するための支援ではなく、一人ひとりの力を発揮できる場へとつないでいく支援には、まず彼らが寄り添いあえる場が必要です。ちなみに私はmixi2の「コミュニティ」は外から見ていることにしました。なんと、「コミュニティ」に入らなくてもそこでのやりとりが見えるのです。きっと公開設定がオープンになっているのでしょう。
「コミュニティを外から眺めることができるのは良いと思う」。こう、文章にすると若干不気味な気もしますが、実際にリアルではクローズでないものも多いので良い仕様だと思います。所属しなくても遠距離から想いを感じていたいという方もいらっしゃるのではないかと思います。
孤立はしたくない。させたくない。でも、居場所に所属するのは重い⋯という気持ち、いかがでしょうか。これからこのSNSがどうなっていくのか気になりましたので、オープン2日目の感想として残してみようと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)