若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
206206
社会負担ではなく
社会資源として個人を捉える。
若者支援のスタンスの変化
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
長いこと広報を担当していて、いちばん難しく、楽しいのは作り物だと思っています。チラシやホームページ、動画作成など、そういうことが好きな性分ではあるのですが、今の立場で得することのひとつだと思います。
つい最近、求人情報を掲載しているページを久しぶりにリニューアルしました。コロナ禍の最中に作ったもので、実は4年くらい大幅な修正をできていなかったので、今回は大工事です。
広報媒体を作るのは自分たちのことを見直すとてもいい機会になります。ホームページは網羅的な情報集合体ですから、全貌を把握することになりますし、なによりそれを表現しなければなりません。
表現とはつまり、言葉やイラストにしたり、写真を使ってみたり、ときには文字の種類や色、大きさを駆使することで表されるものです。やっていくうち、まだ自分たちでも抽象的なままだったものを見つけることもあります。
作成中に名前のないもの、チーム内でも言葉の使い方が違っているものが出てきて「これはこういうことだよね?」と確認しあう時間にもなります。そうしたすり合わせがうまくできている事業ほど、ホームページの完成度は高くなります。問い合わせの内容や利用登録する若者の傾向で、結果として見えてくるものです。
今年もさまざまな事業をあらたに始め、大小あれど、当事者となる方々にご関心を持っていただけるプログラムが多かったように思います。
若者支援のトレンドは少しずつ、講座やセミナーのような特定の時間に特定のテーマを集合的に実施するものから、個人のニーズや能力に沿った支援をアレンジしていくものへと遷移してきているように感じます。
ある支援者は海外の事例を踏まえ「アセットベースドアプローチ」という言葉を使っていました。私たちが関わる若者への社会的な理解は、負担として捉えられることが往々にしてあるのですが、そうではなく、アセット(資源)として地域社会のなかで活躍できるようにしていく考えです。
「生きづらさ」という言葉はどうしても社会保障や福祉と紐づきやすいのですが、そういうところばかりフォーカスすると「自分は社会のお荷物なんだ」「自分は人より優れていることがない」とネガティブな感情も生まれやすくなります。そうではなくて、地域と個人のアセットを鑑みて能力を発揮してもらうことが必要でしょう。
思えば、「支援」という言葉のアンマッチを多くの支援者が感じているように思います。私もそのひとりですが、代わりとなる良い言葉がみつかっていなくて、近しい代替表現としての「支援」はまだしばらく残りそうです。
2024年は天災も多く、またグローバルにみても緊張感のある1年でありましたが、社会不安が高まるときほど、社会的な地位も権力も持たない若者は厳しい影響を受けやすい存在です。来年がより良い年になることを願い、今年最後のコラムを終えたいと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)