そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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「闇バイト」の取材依頼と
スラム街ギャングへのインタビューを重ねて

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

メディアやさまざまなセクターから「闇バイト」についての問い合わせが止まりません。経験者の話を聞かせてほしいというリクエストも続いています。

社会的な問題として認知が高まり、SNSのトレンドでもよく見ます。実際にニュースで取り上げられていることも多く、私が住む地域でも「不審な人が徘徊しているから注意」と回覧板でまわってきました。

報道を見ていると10代、20代の若者が加害者になってしまっているケースが多いように見えます。たしかに、支援の現場でも「これって危ないですか?」とスタッフに相談する方もいて、どこからどこまでが安全なのか、闇バイトとの境目が判断しにくいのでしょう。

それにしても取材依頼に応えるのは非常に難しいです。まず、実際に闇バイトをしたという経験者がいません。彼らも成人前後の大人ですから、自分のやったことの善悪はわかっています。もし仮に経験者であっても、私たちにあえて伝えることはほとんどないでしょう。申告してくれたときには、メディアではなく警察や然るべきところへの相談へとつながっていくはずです。

そういう意味で「闇バイト経験者」がどこにいるのかというのは、私たちにもわかりません。まさに闇です。普段出会う若者たちのなかにもいるかもしれないし、いないかもしれない。

ただ、ひとつ言えるのは、闇へ引きずり込もうとする者の眼光は鋭いということです。あるスタッフが実際にどういうプロセスで闇バイトに至るのか試してみたことがあります。「どうやって?」と聞くと、SNSで「お金欲しい」とつぶやいただけ。誰でもありうるとても簡単な方法でした。

投稿から間もなく“稼げる仕事ありますよ”とDM(ダイレクトメッセージ)が送られてきて、違法ではない、危ないことはない、居るだけで良いなどと甘言をちらつかせてきます。相手の話に乗ってチャットでメッセージのやり取りを重ねていくうち、保険証などの個人情報を送るよう言われたそうです。

スタッフはこの段階で連絡を絶ちましたが、本当に今日の暮らしもままならない状況だったら、そこで危険とわかりながら一歩進んでしまう可能性は捨てきれないのでは? とも思うのです。

そう思ったのは、テレビでスラム街を裏で牛耳るギャング組織へのインタビューの様子が流れているのを見たときでした。ギャングに所属するひとりの若者は目に涙を浮かべながら「こんなことをしたいわけではないが、社会に見捨てられた自分や家族を守るにはこれしかない」という趣旨のことを語っていました。どこか闇バイトに手を染める若者と似通ったものを私は感じたのです。

もちろん闇バイトに加担してしまったことを擁護できるものではありません。しかしながら、そのリスクをとらないと生きていけないほど、頼れるものも助けになる存在もいない孤立状態にある人たちが、この国でも顕在化しつつあるのではないかと思います。

このコラムを書きながら、ブラックフライデーでセール中の屋外用防犯カメラを探そうと考えている自分に複雑な感情を抱きながらも、私が支援の場から見聞きしたことを知ってもらえる機会になればと思い、今回は書かせていただきました。

重ねて、闇バイトやその他違法行為を容認・擁護する意図はないことを付記します。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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