そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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「居場所」にある
「大人が大人らしくしなくていい」
という機能

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

私たちが運営している支援拠点のひとつでは「詩を作る」ことをレギュラーコンテンツにしています。全国的に見ても、レアなプログラムのひとつだと思います。講師に詩人として活躍されている方がゲストで参加しており、世にある詩を一緒に読んでみたり、テーマをもってみんなで詩を書いてみたりしています。

詩を作る制限時間はおよそ15分。ほぼ即興のこの工程は傍から聞いているとなかなかハードなコンテンツです。しかしながら若者たちにはとても人気で、このコンテンツがある日は利用者が多い印象を受けます。

思えば、私はこの様子を知っていました。私の母も歌人で、毎月、決まった曜日に歌人の集まるサークルに参加していました。そこでは、みんなが集まって歌を詠んだり、歌集を出していたりしていて、子どもながらに「大人が大人っぽくない話をしているな」と思っていたのを記憶しています。

最近は孤独・孤立という言葉が広まってきて、その対応策として「居場所」と呼ばれる支援が注目を集めています。新宿区の「トー横」に作られた支援拠点もそうですが、目的性の低い空間を用意し、時間を費やすことができる場です。そうした居場所が持っているひとつの機能には、世間の視線から逃れて、自己表現や感情の発散があるように感じています。

先述した詩のほかにも、イラストやハンドメイドなどの制作物、また、歌・音楽も人気コンテンツです。「居場所」のなかで組まれた音楽バンドって実は結構多いのではないでしょうか。

近ごろはSNSでバズるかどうかが創造性の評価基準になってしまったことで、個人の表現の場はむしろ減少したように思います。ある支援者が「ネットの世界は最初から全国大会でしんどい」と話していたのが印象的です。見てくれる人が増えた分、人に見せて良いものが限られてきたようにも感じています。ひどいときには誹謗中傷をされるリスクすら伴ってしまい、発展途上の段階で人前に出せないとハードルを感じている若者も多いです。

「居場所」は、行き所の無い自己表現やその発散の場として使い勝手は良いでしょう。基本的にはクローズドな場であるし、支援者と顔見知りの利用者のなかであれば、クオリティ云々よりも発表できたことに対しての賛辞がまず飛び交います。評価をされたいわけではないのですから。

この言い方だと、発表されているもののレベルが低いように取られそうですが、そんなことはありません。

作詩のプログラムを通じて、先日ひとつの冊子がまとめられました。若者たちが書いた詩に目を通してみると、それはそれは情緒にあふれていました。15分という制約もあるのでしょうが、生みの苦しみがあったと推察できたり、きっとうまくいったのであろう爽快な読み味のものもあったりと、一つひとつから個性を感じられます。私は評論家でもなんでもありませんが、同じように文章にする仕事をしている身として、大変読み応えのある詩集でありました。

詩という特殊な文体でなければ控えてしまいそうな言葉もつむがれていました。悪意ではないのですが、わざわざ口に出していうのは憚られるような自己否定の言葉、そして社会から向けられた厳しさへのアンサーもあります。SNSに載せたら下手すれば炎上してしまうのではないか、なんて気持ちもよぎります。

でも、それでいいのだと思います。だってこれはSNSで全世界に発信された言葉ではないのだから。母との記憶にある「大人が大人らしくしなくていい」は、確実に世間から疎まれるものになっています。

だけど、それが許容される場があったっていいですよね。それが若者に求められているなら、まずはそこから始められるように、私たちは「らしさ」を感じさせない場を作っていくでしょう。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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