若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
28-228-2
高校が抱える進路指導課題
~後編~
工藤 啓(くどう・けい)
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地域の高校が非常に困難な進路指導課題を抱えている一方、それであれば都心の高校は課題がないのかと言えば、もちろん、そんなことはありません。都心の高校で進路指導を担当されている先生方にも、頭の痛い問題があります。
確かに、地方と比べれば求人数は多く、就職を希望する生徒の選択肢も数の上から言えば広がるのかもしれません。しかし、実際に先生から伺ったお話では、それとは別のところに課題がありました。つまり、卒業後は就職を希望している生徒が、卒業を待たずに、1年生、2年生時に中退してしまうというのです。
いま、在学中からアルバイトをしている高校生はかなりいます。個人的に質問したところでは、携帯電話の利用料を自分で払わなければならないため、というのが理由としては多い気がします。多くの高校生はコンビニやファミレスでアルバイトをしていると言います。その一方で、派遣会社に登録をしている高校生もかなりいます。理由は「派遣で働くと時給が高く、土日の働きたいときに働けるから」です。
派遣会社に登録していれば、30歳を超えていようが、高校生だろうが、同じ時給、日給だったりします。高校生にとっての日当8,000円や10,000円は魅力で、携帯料金の支払いのためだったのが、お金をたくさん稼ぎたくなります。学校に行って寝ているくらいなら、働いてお金を稼いだほうがいい。学校に行くよりも、働いているほうがいいのではないか。そのように意識が変化してきてしまうのです。
もちろん、先生は生徒に「ちゃんと卒業して、就職したほうが将来のためにはよい」と何度も言います。しかし、アルバイトを掛け持ちし、ひと月に20万円も30万円も稼げることを知った高校生にとっては、初任給(額面)170,000円から地道に働くことに意欲は湧きません。結果、学校に行くよりも、働いて稼いだほうが“やはりよい”となってしまうわけです。
これら一部の都市に見られた傾向も、世界同時不況の影響によりどうなるのかわからなくなってきました。内定取り消しの話も聞こえてきましたし、何より、高校への求人数の減少は不可避であるかと思います。中退にしても、保護者の経済状況のあり方によっては自発的ではなく、“やむをえなく”ということも出てくるかもしれません。今後の就職環境の状況によっては、キャリア教育の内容そのものもまた、就職環境に合わせて変化を求められるかもしれません。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか