そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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若者はコミュニケーション力がないのか
~後編~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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大人が若者に“コミュニケーション力”の不足を嘆く一因は、そのプロセスとクロージングにあるのではないでしょうか。私が経験した例から考えてみたいと思います。

以前、ある学生から相談を受けました。きっかけはゼミの教授が私と知り合いで、紹介を受けたからです。一通りの挨拶を済ませると、突然、「大学を休学して留学しようか悩んでいるんです。どうしたらよいでしょうか」と話されました。留学の悩み相談であることは事前に聞いていましたが、相手(学生)の状況も価値観もまったくわからない中では応答のしようがなく、困ってしまった経験があります。

初めて出会うひとであったり、どなたかの紹介で話を伺いに訪れる場合など、本来の用件は互いに認識していても、当たり障りのないテーマから会話を始めたりします。短い時間の中で少しでも相手のことを知り、円滑にコミュニケーションを取る算段を取るわけですが、ここが省略されてしまうと会話がギクシャクします。

そのことを学生に聞いてみたら、「工藤さんに無駄な時間を取らせたくなかった」と言います。こちらに気を使ってくれていたわけなのですが、案外、無駄と思えるプロセスがコミュニケーションを円滑にする重要な要素でもあります。

携帯電話、E-mailなど、コミュニケーションツールの発達により、情報のやり取りがとても便利になりました。特にインターネットが当たり前の若い世代は、これらのツールを簡単に使いこなします。私もよく使い方を教えてもらっています。ただし、“コミュニケーション力”とツールの活用は別物です。その意味で、大人が若者に言いたいのはクロージングの部分なのではないかと思います。

先方企業の担当者から、「あの件はどうなっているんだ」とお叱りを受けたことがあります。新規企画作成のための重要なデータ資料が届いてないと言います。私が若い職員に聞いたところ、「ずっと以前にメールで送りましたよ」と言います。先方企業担当者は届いてない、と言います。後で調べたところ、サーバートラブルの関係だったことがわかりました。

相手にメールで資料を送るのはよいと思います。しかし、それに対する返信やリアクションがない場合、または、メールを送った翌日に一本電話をかけるだけでも確認はできたのです。メールを送ったごとに確認の電話をかけるのは迷惑ですが、重要な案件/資料などを送れば、通常は返信が来ます。それがなければ「何かトラブルがあったのかもしれないな」と考え、確認をするなりして、先方とスタートしたコミュニケーションをしっかりと閉じる(クロージングする)こともまた、“コミュニケーション力”の範囲なのです。

「若者はコミュニケーション力がないのか」という問いに対して、若者になくて、大人にはある、とは決して言えません。しかし、プロセスやクロージングについては失敗経験、教えてもらった経験の積み重ねが強く影響します。だからこそ、経験の少ない世代に対し、いまの若者は…、となるのかもしれません。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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