若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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自己肯定感の喪失
~社会の役に立ちたい~
工藤 啓(くどう・けい)
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職員と話をしていたら、興味深いデータの存在を教えてもらいました。私の事務所は東京都立川市にあるのですが、市内の図書館に市内全市立中学校の各学年から1クラス合計3,713名を対象にした「立川市こどもの自己肯定感などに関する報告書(下記URL参照)」というものがあります。なかなか大規模な調査です。調査票には「自己肯定感」の用語説明があります。
【自己肯定感とは】
自分が生きていることには意味がある、自分は愛される価値がある、自分は大事な存在である、自分には何かできる、などと自分自身を肯定的に捉える感覚をいいます。これは、生きていく上で、とても大切な感覚です。
調査では、市内中学生の78%が「誰かのために何かをしたい」、73%が「社会の役に立つことをしたい」に肯定的な回答を寄せています。さらに、「目標に向かって努力している」中学生が61%もいます。彼ら/彼女らはまだ保護者などに扶養される存在であります。しかし、「個人」「他人」「社会」との関係性のなかで、未来の日本を担う「個人」が利他的であることは非常に希望ある状況です。正直、中学時代に私は目標に向かって努力をするどころか、そもそも目標を持っていたかどうかも怪しいところです。
いま、社会貢献に積極的な企業も増えています。社会貢献事業部やCSR推進室など、以前はなかった部署が設置されています。大学生が就職先を選ぶ際にも、その企業が社会に対してどのように向き合っているのかを重視する傾向もあります。インターンシップ先に、あえてNPOなどを選択する学生も増えている実感があります。
社会の役に立ちたい感情が少しずつ日本社会に芽生え、その影響が義務教育課程にある青少年にも見られるようになってきたのは素晴らしいことです。ただその一方で、“自分自身を肯定的に捉える感覚”をうまく育めない状況が調査報告書から垣間見えるのもまた事実なのです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか