そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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再学プログラム
~仲間内での役割を担う~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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学び直しの機会を不登校や中退経験者に提供する「再学プロジェクト」では、参加者の声を如何に反映させるかがプログラムの充実につながると考えています。以前、参加希望者と共に“何を求めるか”について話し合いの場を持ちました。

ある男性は、「私は人間関係に不安があり、人前で何かを伝えたり、グループでの話し合いの場では言葉が出なくなってしまうんです」と打ち明けてくれました。同じ悩みを抱えるひとも数名いました。

そこで、途中でつまずいてしまった教科・単元の克服を目的とするのではなく、“伝える”こと、“コミュニケーションを取る”ことを目的に、プログラムを一から作り直しました。国語、数学、英語という教科を目的達成のための「手段」と捉え直し、ひとつの問題や課題に対して二人、三人のグループになって挑戦する。回答やそこに至るまでのプロセスをみんなの前で発表する機会を多く取り入れました。

すると、数学が得意な参加者はそうでない参加者のサポートを。サポートを受けた参加者は、自分がよく理解できる単元をそうでない参加者に教える、いわば相互扶助的な空間がプログラム内に生まれるようになりました。また、勉強そのものは苦手でも人前で話すことが苦にならない参加者が、グループ発表では代表者として前で素晴らしいプレゼンテーションをする光景も見られました。

前回でも書きましたが、不登校や中退経験者は「学業不振」「学校不適応」を理由に挙げています。勉強が苦手であれば、得意な人間がサポートする。グループ代表として発表をしっかりすることで、仲間内での役割を担う。その繰り返しのなかで気がつくと参加者それぞれが打ちとけ合い、互いを尊重してチームになっていく。そんな風景を眺めていると、もし学校や教室という空間で、彼ら/彼女らが役割を担う機会があれば、「コンプレックスです」と過去を振り返って言うようなことにはならなかったのかな、と思ったりもしました。

まだまだ始めたばかりのプログラムではありますが、ここで得られた知見を広く学校の先生方とシェアすることで、教育という分野に貢献していきたいと考えています。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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