そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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地震のとき若者は
~情報を届ける~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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2011年3月11日15時前、三陸沖を震源とする巨大な地震が起こりました。いわゆる、東北地方太平洋沖地震です。私は事務所の自室でパソコンを前に仕事をしていました。小さな揺れは徐々に大きくなり、ビル全体に軋むような音が響き渡りました。すぐに外に出て状況を確認し、社員などを隣の駐車場に移動させました。何よりも人命第一、安全最優先です。

各事業所の状況を確かめようにも固定電話も携帯電話もつながりません。少し揺れがおさまったところで机に座り、パソコンの画面を見るとSkype(スカイプ)―インターネットを経由した通話・通信機能―で社員の「いまパソコンの前にいますよ」というマークが点灯しているのに気が付きました。

すぐにそれぞれの社員をインターネット上で集め、現在の状況を集約。それぞれがどのように行動すべきかを指示しました。私はテレビの情報をもとに話を進めていましたが、いくつかの事業所にはテレビがなく、テレビ画面を見ながら話をする私の言葉がうまく伝わりません。

そのとき、ある中学生がテレビ画面の前に一台のカメラを置きました。カメラをUstream(ユーストリーム)という誰でも無料で使える動画共有サイトとつないだのです。インターネットさえあれば地震情報について放送するテレビ画面が誰でも見られるようになりました。1,000人、2,000人と視聴者が増え、すぐに数万人規模にまで膨れ上がりました。

そこには単身赴任や出張で海外に駐在する日本人の方も多く、家族や地元の安否を確かめるべきパソコンの画面にかじりついているようでした。たったひとりの中学生が国内外へ地震情報を伝達したのです。画面向こうの“誰か”からは「日本の情報が入って助かった」「外にいてもテレビ情報が取れてありがたい」というメッセージであふれました。

その中学生は誰だかわかりません。少なくとも有名になりたいからといった功名心からの行動でないことは確信を持てます。新しいテクノロジーを当たり前のように活用し、困っているひとのために悩むことなく行動する。彼が届けたのはテレビから流れる「情報」のみならず、何が起こっているのかすらわからないで不安に陥っているたくさんのひとびとの「安心」を届けたのだと、私は思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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