そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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フォローアップ
~相談は向こうからやって来ない~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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先日、オフィスでデスクワークをしていると、社員が手分けをして電話をかけていました。電話の相手先は、育て上げネットの就労プログラムを経て自立した若者たちです。時折、暇になると顔を出す卒業生もいますが、一年に一回、二年に一回程度しか合わない卒業生が大半です。

彼ら/彼女らも仕事で忙しく、育て上げネットに来る前と異なり、友人や恋人ができたり、休日や祝日も忙しく活動しているため実際に膝を突き合わせてコミュニケーションを取る機会は限られています。だからこそ、問題なく元気でやっているかどうかを知るために、こちらから連絡をしているわけなんです。

当たり前のことですが、私たちはいつも、「もし何か困ったことや悩みがあったらいつでも連絡してください」と卒業生に伝えています。どんな小さな悩み事であっても、共に考え、乗り越えて行きたいと考えています。しかし、時には「実は仕事を辞めてしまいまして…」とか、「転職をしたのだけれど職場の雰囲気に合わなくて苦しいです」という声にぶつかります。

いつも私が思うのは「なんでもっと早く連絡くれなかったんだ」ということです。悩みや不安を一人で長期間抱えることで状況が好転することはあまりありません。むしろ、長期化させることで物事が悪化することもあるわけです。

一方、連絡をしてこない卒業生は、「言わなかった」のではなく「(言いたかったが)言えなかった」のだと言うわけです。この「言えない」ということが、卒業生のフォローアップが難しい所以です。感謝の気持ちが強ければ強いほど、卒後の進路で躓いている自分を見せることはできないと考える傾向にあります。

「何かあったらいつでも相談にのるから連絡をくれよ」という言葉は、これから大海原に飛び出す若者にとって勇気を与えますが、フォローアップの意義を考えたとき、私たちは彼ら/彼女らにどうアプローチしていくべきなのでしょうか。少なくとも、何か困ったときに向こうから連絡が来ることだけを前提としたフォローアップは、その目的を十分果たせそうにはありません。だからこそ、工夫や仕組みを作り、“若者自身の状況”を知ることができるフォローアップ体制を構築しなければならないのです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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