若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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~質問のタイミング~
工藤 啓(くどう・けい)
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大学や高校でお話をさせていただくと、多くの場合、学生から私への質疑の時間が設定されます。先生が学生に向かって「それでは質疑の時間を取りますので、誰か工藤さんに質問があるひと」と投げかけます。
雑感ですが、80%くらいの会場で手があがりません。この沈黙の時間は前に立っている人間には結構シンドイものがあります。質問がないことがシンドイのではなく、さっきまで顔をあげて真剣に話を聞いてくれていた学生が一斉に下を見て、質問が出なかった際、先生にあてられないよう防衛策を取るのです。これを見ているのがつらいのです。
もちろん、本当に質問がないことはあるでしょう。また、登壇者の話を頭の中で反芻してまとめていることもあります。それでも質疑の時間は限られていますので、そのままタイミングを逃してしまうことはとてももったいないと思います。
私は、社員や自分が出会った学生には、「前に立ってお話させていただくものとして、多くの場合、“いの一番に手を挙げたひと”か“最も印象的な質問を投げかけてくれたひと”くらいしか覚えていない」と伝えています。そして、印象的な質問はなかなか考えるのが難しいけれど、最初に質問するのにはちょっとした勇気があればできるので、どんな質問でもいいので手をあげてみてはどうだろうか。そこから何か出会いやチャンスが生まれるかもしれないと言っています。
実際、登壇させていただく側も、質問を会場から取ろうとする運営側も、質疑の投げかけに、さっと手を挙げてくださるととても安心します。なぜなら、一人目の質問や感想が出ると、会場全体が質問しても大丈夫モードに変わり、次から次へと手が挙がるスイッチになるからです。
もしかすると、学生には質問がないのではと思われるかもしれませんが、私はそうでないと確信を持っています。なぜなら、講義が終了した後の時間には多くの学生が個別に声をかけてくれますし、E-mailやTwitter、Facebookなどを経由して質問が“後で”来ることも少なくありません。
それでも私は、質問があれば会場で勇気を出して発言してくれるひとが増えたらいいなと思っています。それは自分自身のためということもあるかもしれませんが、質問したいけれど気恥ずかしくてできないひとを助けられます。「場」への貢献になるからです。これは若者に限ったことではありません。しかし、若いうちから癖や慣れをつけておかないと、本当に質問したいときに勇気がでないまま大人になってしまうかもしれません。それはとてももったいないと思うのです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか