若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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大卒だって無職になる
~無職よりも無縁が怖い~
工藤 啓(くどう・けい)
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拙著「大卒だって無職になる“はたらく”につまずく若者たち」で伝えたかったことはいろいろありますが、少なくとも無職になっている事実は事実として知ってもらう以上に、無職になるよりも、そこから抜け出せない状況に陥ってしまったときの厳しさ、つらさを感じてもらえればと思いました。
極端に言いますと、無職になることはそれほど怖くありません。誰もが憧れた日本を代表する企業がものすごい勢いで社員の数を減らしています。既に誰も、自分が所属している会社なりが未来永劫安泰であるとは考えていないでしょう。むしろ、一度や二度、無職(失業)することは人生で起こり得るサプライズどころか、驚きでもなんでもないかもしれません。
学歴にかかわらず、私が無職になって困っている若者の話を聞いていて思うのは、無職になることよりも、無縁になることのほうがよっぽど怖いということです。無縁とは家族以外のひととの関係が切れてしまうことです。もちろん、家族とも縁がなくなってしまう若者もいます。
もともと、自宅と会社の往復だけで、職場を通じた人間関係しかなかったひともいますし、無職になったことで友人や知人との距離を置くようになったひともいます。そうなると相談をしたり、助けを求めたりできなくなりますし、向こうから助言や情報も入ってこなくなります。インターネットでも情報は取れますが、やはり、信頼できるひとからの情報のほうが安心です。
会社に属するということは、景気が悪くなったり、経営がうまくいかなくなったりで、自分の努力を超えた力が働いて失業することはあります。しかし、仕事の有無とは別に、ひととのつながりを大切にすることは、自らの行動で育める部分はかなり大きいと思います。家族や親族、友人や知人、地域の方々との関係は見えないセーフティーネットになり得ます。うまくいっているときこそ、つながりを強くすること、たくさん持つことに、時間や労力を費やしておきたいものです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか