そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

65-2

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調べてみること
~進学先の就職率は?~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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高校3年生はこれから進学先を絞り込み、さまざまな入試に向けて準備をされている頃だと思います。大学に進学するにせよ、専門学校に進学するにせよ、来年度以降に学んでいく学部・学科や専門領域をしっかり選んでいかなければなりません。特に、憧れの大学に学びたい学部がない場合や、その逆のパターンに直面すると大変迷われると思います。

ご存知の通り、近年、若い世代にとって正社員で就職することは大変難しくなっています。人気企業の倍率は高く、非常に狭き門です。それ以前に自分がやりたい仕事や、追及したい分野を決断することも大変です。そんな状況が長く続くなかで、進学希望先の学校の「就職率」がどれくらいか気になるのではないでしょうか。

テレビや新聞では、「今春大学を卒業する学生の内定率は○○%です」という数字を流しています。各学校も「卒業生の就職率○○%!」とPRされているのではないでしょうか。どれも80%とか90%を超えていて、「おっ、なんだかんだで就職できそうじゃないか」と感じるかもしれません。

そんなときも少し調べるだけでそれらの数字の意味を理解することができます。例えば、「就職率」と「就職(内定)率」は異なります。就職率とは、就職が決まった学生の数を卒業する学生の数で割って出します。もし、卒業後に就職するのではなく、大学院などに進学する学生が多いと、就職率は下がり(低く見え)ます。卒業者の50%が進学をして、もう一方の50%が全員就職できたとしても、就職率は50%です。

就職(内定)率の計算式はまた異なります。就職が決まったひとを、“就職を希望する学生”の数で割った数になります。卒業生ではなく、就職希望者だけです。アンケートで「あなたは就職を希望しますか」という項目に○をつけなかったり、そもそもアンケートに答えないひとは入りません。そもそも「希望」するかどうかはその日の気持ちに左右されることもあります。

「(内定)」とは、卒業する前に「内定」をもらったひとのことを指します。この「内定」はひとりで何十個も獲得する学生だっているはずです。よくないことですが、1人の学生が10社から内定をもらったとき、そのひとが就職するのは1社だけなのに、他の9社の数も就職者数に入れて計算しているような学校もあると聞きますし、本当は就職内定率なのに、それを就職率と混同して発表している学校も存在するそうです。

少しごちゃごちゃ書きましたが、大学選びのみならず、私たちの目の前にはすごそうな数字がたくさん並びます。しかし、それは何かを計算した「結果」を示しているだけです。それに一喜一憂したり、気持ちが左右されないよう、「結果」ではなく、それを算出した計算式や計算方法を少しだけ調べてみてはいかがでしょうか。もしかしたら、これまでとは全然違った「結果」に気がつくかもしれません。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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