そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

68-1

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考え方
~Glass half full/Glass half empty~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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「Glass Half Full」「Glass Half Empty」という言葉があります。前者は、グラスに半分“も”お水が入っている、後者は、グラスに半分“しか”水がない、と翻訳されたりします。もっと直接的に、前者を楽観的、後者を悲観的と表現することもあります。

物事をどのように見るのかは、それぞれの価値観や考え方によります。正解もなければ、どちらが他方に比べてよいということでもありません。とは言え、楽観的な性格のひとは、傍から見たら完全に追い詰められた状況に見えても、本人は全然そんな気持ちはなく、むしろ自然体で余裕だったりします。そういうひとは半分水の入ったコップを見て「半分“も”水がある」と言うのだと思います。

大学生の就職活動を考えてみたいと思います。だいたい誰もが知っている大手の企業は、春から夏休み前にかけて翌年度の新卒採用を終えます。特定の企業に行きたいと思っていた学生も、大企業に就職したいと考えていた学生も、なかなか内定が出ないと内心焦ってきます。もしかしたら自分が希望している企業では働けないのかもしれない、と考えれば、当然不安になります。

インターンシップをしていたある男子大学生は、新聞記者になりたいと言っていました。誰もが知っている新聞社で働きたいと考えていたわけです。普通の学生であれば、第一希望の企業だけでなく、他の新聞社や全然分野の違う企業でも就職活動します。大企業に入るのは簡単ではないですし、就職が決まらないまま学校を卒業するのも不安だからです。

しかし、彼はその新聞社しか受けないと言うのです。個人の価値観や生き方に他人が口を挟むべきではありませんが、それでも声をかけました。「そこが不採用だったら次どうするの?」と。

すると彼は私に、「国内だけでも200万社以上“も”会社があるんですよ? 選べませんよ。ただ僕はこの新聞社で働きたいんです」と笑顔で言うわけです。大学生の多くが不安と闘いながら就職活動するなか、彼は不安を微塵も感じさせず、結局、希望する企業に入りました。

彼が希望する企業に採用された理由は知り得ませんし、逆に、採用されていなかったらどうしていたのかもわかりません。ただ、ひとつだけ言えることは、200万社以上“も”会社がある(のだから何とかなるでしょ)、と言い切れる気持ちの余裕、その余裕を生み出すための知識や情報を、彼は自ら取得していたことです。友達や先生、周囲が何を考え、どう行動しても動じることなく、自分の軸をしっかりと定めた上で判断と決断ができること。楽観的であることは、生まれつきの性格ではなく、物事を主体的に調べ、自分なりに理解できるようになるための事前調査の結果だったというわけです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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