若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
85-285-2
生活スキルと手抜き
~工夫と手抜きは紙一重~
工藤 啓(くどう・けい)
公開:
更新:
昨年、双子を授かり、保育園に通う二人の子どもと併せて四人の子どもを育てています。夫婦二人で子育てしていますが、なかなか時間的な余裕を作ることができません。私の一日のスケジュールは、上の二人の子どもとともに朝6時に起床し、朝食と着替えを済ませて保育園に送ります。それから出勤をして18時頃に帰宅します。いま、妻が育休中なので、日中の双子の育児をしてくれています。
18時30分頃までに四人の子どもたちを夫婦二人でお風呂に入れます。一方が湯船担当で、もう一方が身体を拭き、着替えさせます。その合間に夕食の準備をします。それから食事をし、歯磨きを済ませて20時前には寝室へ。絵本を読んだりしながら21時過ぎくらいに子どもたちは就寝します。二人でやってもこれだけかかりますので、いまの段階ではひとりで育児をするのはかなり負担になります。
ただ、大人も体調を崩しますし、プライベートな時間だって必要です。双子に授乳をする妻の疲労回復や睡眠時間もできる限り確保したい。それでも保育園児二人と双子乳児の場合、なかなか時間を節約することは難しいのです。今日は食事抜きでいいやというわけにもいきません。
そうなると工夫という名の手抜き、または、手抜きという名の工夫をする必要が出てきます。先日、双子に哺乳瓶を使ってミルクをあげていました。そうすると一番上の子どもが、お年玉で買った新幹線変形ロボ・シンカリオンの使い方を教えてほしいと説明書を持ってきました。それを見ながら口頭(両手は哺乳瓶でふさがっています)でどこをどう動かしたら合体できるかを伝えていると、二番目の子どもが「うんちしたー」と教えてくれました。妻は不在です。
誰かを待たせ、一つずつ順番に終わらせていくことですが王道ですが、寝る前の時間帯ではうまくいきません。疲れて眠いためおとなしく待っていることができずにぐずります。順番と言えば「自分が先!」と主張します(双子も泣いて主張します)。少しだけ考えて、全部を解決する方法を見つけました。
双子がそれぞれくわえた哺乳瓶は、(まだ自分で持てないので)本来、手で持ちますが、両足首を曲げて土台を作り、そこに乗せるようにしました。空いた両手でおむつを変えながら、目線を説明書に向け、シンカリオンの合体について伝えます。
子どもにミルクを飲ませるときに足を使っている、と言えばひどいやり方に思えますが、そうでもして両手をフリーにしないと他のことができないので割り切ります。効率的に物事を終わらせていくことを重視しないと生活が回りません。
「完璧を目指すよりまず終わらせろ(Done is better than perfect)」
あのfacebook社で使われている言葉のようですが、まさにその通り。完璧を目指して終わらなかったり、疲弊してしまうよりも、終わらせることを優先した方がいいこともあります。これは価値観に大きくよりますが、きちんと終わらせたいひとが多くのやらなければならないことを抱えてしまうと、時間的にも、精神的にも苦しくなってしまいがちです。
これまでしっかり終わらせることが大事だと言われ続けていたら、「そうしなければならない」と頑なに考えてしまうかもしれません。しかし、時間や体力は限られていますので、そうならないようにある程度の「手抜き」を許容した方がいいこともあるのではないでしょうか。
それを、「工夫という名の手抜き」というのか、「手抜きという名の工夫」というのか。私は後者だと思って、手を抜いて、いや、工夫をしています。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか