若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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学生時代の自分に伝えたいこと
~出身高校で講演することに~
工藤 啓(くどう・けい)
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自分で言うのも変ですが、高校時代はどこにでもいる普通の高校生でした。練習熱心なサッカー部だったので、高校生活は部活が中心。登校して、ときどき寝てしまいながらも授業を受け、放課後は部活。自宅に帰って寝るサイクルです。土日も部活で登校するか、練習試合や公式戦でスケジュールは埋まっていました。一度部活を辞めて復帰したことや、初めて彼女ができたことを除けば、平々凡々とした高校生活だったと思います。
特に何かを考えるわけでもなく大学へ進学しました。その後、中退をして留学し、帰国して起業しましたが、高校時代にそのような人生の変化があるとも思っておらず、ましてや、校長先生や先生方が話をする体育館の壇上から、在校生に向けて話をする未来が来ることなど予想だにしていませんでした。
今年の一月、私は卒業した高校の壇上に立ち、20年ほど前に自分が並んでいた場所にいる生徒の前にいました。普段は事前に話す内容を詰めることはないのですが、今回は声をかけてくださった校長先生とやりとりをしながら、学校生活や卒後について自らの想いを話すことにしました。
伝えようと思ったことは、将来何があるかわからないけれど、どのような変化に出会ってもいいようにしておいた方がいいのではないかという示唆と、なんだかんだ言ってもひとのつながりは大切で、特に普段あまり合わないようなゆるやかなつながりは大切に、ということでした。
しかし、後で校長先生が生徒に聞いて回ってくださったところ、印象に残ったのは席替えと「力」の話だったそうです。私の担任の先生は生活委員に「席替え」の権限を委任してくれていたため、生活委員であった私は「席替え」をするかどうか。するとしたらどのような形式をするのかを決めることができました。これが「力」です。大した「力」ではないのですが、高校生にとって「席替え」は重要なイベントでした。いまはわかりませんが。
その「力」にはさまざまな声が寄せられます。それぞれが考える“良い座席”を巡って、さまざまなオファーが来ます。「○○さんの隣になりたい」「窓側の一番後ろに座りたい」といった希望から、いまの席に満足をしているので「席替え」不要論までさまざまです。
当時は何も意識していませんでしたが、当時の自分と話ができるとしたら、「席替え権限、その力がひとにどう影響を与えるのか。その力を持ってしまった人間としてどう振る舞うべきかを考えろ」と言いたいです。振り返ると、私はその「力」を「力」として認識せず、全体のことを考えることなく声として発せられた一部のひとの意見をくみ上げていたように思います。もちろん、全員が納得できる正解はなかったでしょうが、少なくともクラス全員が納得できる解答を考え、議論して、責任を持って意思決定する、非常によい機会になったのではと思うのです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか