若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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外に出られなくなったら
~家族が外に出られない~
工藤 啓(くどう・けい)
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最初にお伝えしたいのは、怪我や病気などを除くと、突発的に外出ができなくなるようなケースは多くないと考えます。適切なデータがないので経験的になってしまいますが、何かご本人にとって外出しづらい、したくない状況があり、「出たくない」が「出られない」状態にゆるやかに変容していきます。
もうひとつお伝えしたいのは、必ずしも御本人に明確な理由、解決可能な課題があるとは限らないということです。「なんとなく」ということもあるでしょうし、理由が複数あり、どれが一番かを決められないときもあるでしょう。そのため、「なぜ」「どうしたら」を突きつけられると困ってしまうこともしばしばです。
友人や知人の一声や、ちょっとした意識の変化で外出することもあれば、家族の関わり方が変化したことで気持ちが切り替わることもあります。その意味で、「こうしたらよい」という解答はありません。
その一方で、外に出られない状況が長期化し、何年、十何年と経っている場合、外出までのハードルが高くなってしまう傾向は見て取れます。家族との関係が取れていればいいのですが、普段は顔を合わせることもなく、やりとりが手紙やメールといった断絶状態になってしまっていると、慎重に時間をかけて関係構築をやり直す必要が生まれてきます。
前編でも書きました番組放送では、自室のドアを破壊して他者が介入するシーンが流されました。依頼したご家族は藁にも縋る思いであったかもしれませんが、一般的に考えれば、見知らぬ人間が暴力的に入室してくることを、結果論を含めて、「よし」とは考えられません。
第三者としての「支援団体」を活用することは選択肢としてあり得ますが、その場合は複数の団体をリストアップして検討すべきです。またご家族のみならず、御本人が支援団体への相談や依頼、家庭訪問や自宅付近に来られることに同意していることが大前提です。
私も支援団体のひとつではありますが、突然、支援団体を見定め、利用するというのは不安ではないでしょうか。ここでは二つの方法を提示しておきます。
ひとつは、複数の支援団体をリストアップし、よく調べるということです。この際のポイントは、自団体による説明会や発信情報だけでなく、例えば、行政などが主催するイベントで講師として呼ばれている場を選んで参加してみることです。都道府県や市区町村行政が設置した審議会や委員会、ネットワーク組織に名を連ねているかなども見てみましょう。
もうひとつは、「ひきこもり地域支援センター」など公的な機関にまず相談をし、そこから適切な支援機関を紹介してもらうものです。公的な機関であっても、ご家族からの情報だけでご本人に適切と思われる支援団体を紹介するのは簡単ではありませんが、それでも一定の不安解消、リスク低減にはなると思います。
最後に、相談先を探すとき、近隣地域の情報を集めがちです。近所であると外出しやすいと思われがちですが、地元から離れた場所を望むケースもあります。生活圏内はもちろんですが、インターネットなどを活用して圏外の情報も探してみてください。御本人が意を決することができるポイントがどこにあるのかはわかりません。むしろ、多様な選択肢を情報として持っておくことの方が大切になります。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか