若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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少年院のなかにいる子どもたち
~社会の側に安全で安心ある場所を~
工藤 啓(くどう・けい)
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知り合いから突然「少年院に入っていた。」と聞いたらどのような反応をしますか。この数年、少年院や少年鑑別所に行き、少年たちがどのような生活をしているのか。そこから出た後、どんな人生を歩むのか。何か私にできることはあるのかを学んでいます。
主に10代の子どもたちがそこにはおり、近年では低年齢化しているそうです。生活に関していえば、さまざまな指導のもとで子どもたちは矯正教育を受けています。ポイントは「教育」を受けているということです。指導としては「生活指導」「職業指導」「体育指導」「特別活動指導」があります。
細かくは書きませんが、ざっくり言えば、私たちが日常的に過ごしている生活習慣、それは親などから教えられたもの、を身につけられるようにすることや、少年院から出た後、学校や職場でうまくやっていけるような指導を受けています。
そこにいる子どもたちの約半分は窃盗や傷害・暴行などを理由に少年院に入っています。もちろん、それは犯罪ですので相応の罰を受けているのですが、よくよく勉強してみると、そもそも両親が揃っていなかったり、血のつながらない親や親戚に育てられていたりと、家庭背景は複雑です。
家庭環境が十分整っていなくても罪を犯すことのない人生を送る子どももいますが、それではなぜ彼らは罪を犯すのか。その違いはよくわかりません。しかし、実際には周囲によい友人や大人が不在であり、また、そのような仲間を作るための基本的な立ち振る舞い方を身に着ける機会が著しく不足していたように思います。
渡した訪問をした日、たまたまインフルエンザが広がっていたことがありました。子どもたちは医師による治療、早くよくなるための食事、そして休息を十分に取っていました。私がインフルエンザにかかったときは、親がやってくれたことです。しかし、彼らの家ではそのような暖かみのある親がいなかったのかもしれません。もしインフルエンザが酷い状態でひとり放置されてしまったら命を落とすことだってあり得ます。
少年院という場所に入らなくていい人生に越したことはないでしょう。しかし、私はそのとき考えました。子どもたちが「この場所」ではなく、重篤な症状のままひとり放っておかれてしまうような環境であったとしたら、むしろ、「この場所」にいたからこそ命をつなぐことができたのかもしれません。
不謹慎な感想かもしれませんが、少年院にいる子どもたちにとってどこが安全で安心な場所であるのか。少なくとも少年院の外、私たちがいる社会の側にその場所があってほしいと願わずにはいられません。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか