そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

89-2

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少年院のなかにいる子どもたち
~たった一声で人生が好転するかもしれない~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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私が訪問した少年院では、退所後に学校に戻りたい子どもたちは少ないようです。自宅に勉強できる環境がなかったり、小学校の早い段階で勉強についていけなかったりすることで、学校という場所を求めづらくなっていること。それ以外にも、一学年(一歳)年下に混じって勉強をすることが恥ずかしいといった理由もあるようです。

通信制という選択肢もありますが、基本的には自学自習でレポートを提出し、試験を突破しなければならず、なかなかハードルが高いということでした。もちろん、少なくない子どもたちが塾やサポート校などに通う経済的支援を親から受けることができません。

そうなると必然的に退院後は就職希望となりますが、働き先が決まった状態で少年院を出る子どもたちは30%くらいで、大半の子どもたちは無業状態で社会に出ます。中卒や高校中退で就ける仕事は限られており、一生懸命就職活動をしてもよい職場に巡り合うことも難しいようです。

なんとか就職先を見つけようとして努力をしてもなかなか決まらないと、ひとは誰でも不安になります。不採用が続くと、「どうせ出してもまた不採用だろう」と、就職活動もつらくなってきます。証明写真や面接への交通費などお金もなくなってきます。私は無業の若者を支援しておりますので、彼ら特有の状況ではないと言えます。

なかなか思ったようにいかないとき、勇気や希望になるのが友人や知人からの一声です。具体的な提案がなくても、応援してくれる仲間が傍にいてくれるだけで、また明日も頑張ろうと思えるものです。

前回、「少年院に入っていた」と告げられたらどう反応するかを聞きました。何か特別な助言ができないと思うかもしれませんし、場合によっては距離を置きたいと考えるかもしれません。しかし、深く支援をするのは専門家に任せればいいのです。それよりもみなさんに期待したいのは、「頑張れよ」とか「次が決まったら教えてね」といった自然な一声です。そんなちょっとした一言が大変大きいのです。逆に誰からも関心を寄せられてない、期待されていないと、それを察知した悪い大人たちが心の隙間に入り込んできます。

犯してしまった罪を償い、反省することは必要でしょう。しかし、もっと必要なのは「その後」同じ過ちを犯さないことであり、そのために私たちはできる範囲で、社会の側として迎え入れていくということであり、ちょっとした一声をみんなでかけ続けていくということなのだと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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