若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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嫌なことから先に、早めに
~相手があることから優先的に~
工藤 啓(くどう・けい)
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2016年も終わりに差し掛かってきました。受験生は追い込みの時期ではないでしょうか。「一年の計は元旦にあり」という言葉を聞くことも少なくなりましたが、新年の初めに一年間の目標を立てることがあるとするならば、いまはその振り返りをして、できたことやできなかったことを改めて確認する時期でもあります。
人間誰でも嫌なことはやりたくありません。手間暇のかかること、苦手なこと、怒られるかもしれないこと。やらないといけないことはわかっていても、どうしても理由をつけて後回しにしてしまうことなどいくらでもあります。私は、髪を切ることをよく後回しにします。切ることが嫌いではないのですが、よっぽどぼさぼさでない限り、誰かに迷惑をかけることもありません。だから後回しにしてしまうのです。
しかし、どんなに嫌でも後回しにしてはいけないことがあります。それは「相手のあること」です。例えば、美容院に行くことを後回しにしても、それによって迷惑をかけてしまう相手はいるわけではありません。強いて言えば、「また行ってない」と注意をする妻くらいでしょうか。
例えば、私が米国に留学をしようと準備をしていたとき、高校時代の通知表を英語で提出する必要がありました。学校に依頼をすれば作成してもらえるのですが、卒業して2年も経つと、なんとなく足が向きません。行かなければいけないことはわかっていても、後回しにしてしまいます。
そして期限が近付いてきて、いよいよすべての申請書を提出する段階で高校の事務室に行くと、しっかりと注意を受けました。通知表は日本語で書いてありますので、英語版は翻訳作業が発生します。正式な書類ですから、適当に渡すこともできません。さまざまなひとがかかわって私が必要とする書類ができるわけです。
期日が迫っていたため、何とか頭を下げて間に合わせてしまいましたが、多くの方々の仕事を止め、ご迷惑をかけてしまいました。申請期日は私自身の期日であって、相手の期日ではありません。依頼相手にも仕事があり、また、ひとりでやれるものでなければ、他の方にも業務が発生します。他の方にも日常の仕事があるわけです。
言われてみれば当たり前のことかもしれませんが、自分にとって嫌なことを後回しにしてしまうことは誰にでもありえることで、だからこそ相手があることは意識的に優先度をあげておく必要があるのです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか