若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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進路は誰のもの
~助言に疑問を持つのは正しいこと~
工藤 啓(くどう・けい)
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高校2年生くらいになると、そろそろ卒業後の進路を考えるようになります。そのきっかけはもしかしたら保護者や先生からの問いかけかもしれません。私自身を振り返ると、ぼんやりと高校卒業したら就職しようかと考えていました。
大学進学が難しかったわけでも、働くことに憧れていたわけでもなく、何となく学びたいこともないなかで進学するのであれば、その時間がもったいないので働いて、学びたくなったら大学に行けばいいかな、そのくらいのイメージでした。
両親にそれを伝えたとき、これまで私の意思決定に一度も口を出したことのない父親から、やりたいことがなくてもいいから一度進学してみたら、という言葉を聞いて驚きました。ただ、理由を尋ねると毎日学校と部活だけの生活で中学、高校時代を過ごしていたので、もっと広い世界を見たり、アルバイトをしたりする時間を持った方がいい、というシンプルなものでした。
私自身はそれに納得をして、大学に進学をしました。ただ、2年間で中退して留学という道を選んだ(留学も途中で終了して帰国)のですが、学校生活以外のことを知らない人間にとって、自由度の高い時間というのは非常に大切なものでした。
そのときの担任の先生も「工藤くんがしたいようにすればいい」というスタンスだったので、明確な理由がなくても、私の意思決定にブレーキをかけるひとがいなかったのは幸せな環境だったように思います。
ただ、みなさんの進路に対する助言や価値観はバラバラです。みなさんのことを思っての助言も、少なからず「そのひとがよいと感じる進路」が前提となります。ひとは自分が経験してないことを他者に進めることはあまりないからです。
上記の記事では、進学に対しての助言が「より高い偏差値の大学進学」に偏っており、それに対する疑問を高校生が提示しています。すべての進路相談がこのようではないはずですが、生徒の将来をおもんぱかって少しでも高い偏差値の大学を進める、というのは先生にとってそれが幸せにつながり得るという前提があるのだと思いたいところです。
言うまでもありませんが、進路はみなさんのものであり、みなさんの意思決定が最も重要です。ときに異なる助言をいただくこともありますが、それを大切にしながらも、本当にそうだろうかという疑問を常に持つようにしてください。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか