若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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性的指向・性自認の悩み
~誰かを守れるひとでありたい~
工藤 啓(くどう・けい)
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若者支援の現場では、就職や進路の相談のなかで、少なからず性的指向・性自認の悩みを打ち明けられることがあります。長く寝食をともにしたわけではない職員を信頼してくれたことを大変嬉しく思います。
しかしながら、職員も人間なのですべての悩みに回答を持っているわけでもありません。研修や学習を通じて学びを深めることはもちろんですが、その分野の専門家の力を借りることで、相談者をチームで支えていくようにしています。
先日、LGBTを含めたすべての子どもが、ありのままの自分で大人になれる社会を目指して活動している認定特定非営利活動法人ReBit(りびっと)の薬師 実芳代表と意見交換する機会がありました。
そのときのテーマは「LGBTの若者が相談しやすい環境をどのように作るか」だったのですが、就労支援機関に限らず、学校でもそうですし、友人同士でもすごく参考になる話が多かったです。
そのなかで私がひとりの人間として、これから意識していきたいと考えたのが次のことでした。
誰かが性的指向や性自認について、ネタにしたり、笑いの対象にする場面があったとき、率先してその話題を止めたり、変えたりする役割になれるひと、それはその場にいるLGBTや家族にとって、とても心強いということです。
これは誰かがLGBTであることを周囲に知らせているかどうかは問題ではありません。また、あなたが特定の友人がそうであることを知っているかどうかも関係ありません。日常生活において、オープンにできない悩みを心に留めているひとはLGBTに限らずたくさんいます。
そのひとたちにとって、不快な話題や傷つくような話があったとき、加担しないのはもちろんのこと、「それは誰かが傷つく可能性がある」と勇気を持って発言する、そんなひとたちが当事者にとってどれだけ大切な存在になり得るのか。
そこにいないから、ネタにしてもいいということはありません。そうであることを知らないから笑い話にしていいわけでもありません。もしかしたら、発言した人間はまだ未熟で、想像力と配慮に欠けているだけで、周囲にそれがよくないことであると伝えてくれる人間と出会ってないのかもしれません。
これは高校生に限ったことではなく、大人でもよく起こります。また、私自身も自覚のないままに誰かを傷つける発言をしていることがあります。そんなとき、「それはダメなことなんだ」と教えてくれる友人は、心からありがたい存在です。
誰かを守れる存在は、何かあったときに前に出られるひとだけではなく、何かが起こる前にそれを鎮静化させる予防的な視点を持ったひとでもあると言えないでしょうか。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか