若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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頼る力、甘える力
~見知らぬ大人に助けを求める~
工藤 啓(くどう・けい)
公開:
ここの一枚の写真があります。
昨年12月の初旬に、小学生から高校生年代の子どもたちを支援している職員からもらったものです。子どもたちが私への「お願い」として作成したものです。
理事長サンタさんへ
クリスマス会で作るケーキには苺をのせたいのですが、予算の都合上高くて買えないと言われました⋯でものせたいんです! 食べたいんです! 優しい理事長サンタさん、苺をください
お皿の上のケーキ(らしきもの)の上には苺ではなく、「アポロチョコレート」を乗せています。これを見たとき最初に思ったのは「ずいぶんと甘えられるようになったな」というものでした。
育て上げネットに通ってきている子どもたちは、甘えることが下手な印象です。やりたいことや、食べたいもの、やってみたいことなど、実現できるかはともかくとして、とにかく言ってみるということが苦手です。
もちろん、家族でも友人でもない、ほとんどの子どもたちは私の顔も知らないわけですが、そういう存在に対して甘えたり、頼ったりするのではなく、我慢することでやり過ごします。これは我慢ができる子どもという評価をすることもできますが、自分の希望を口に出さず、初めから諦めて飲み込んでしまう子どもとも見ることができます。
私が「理事長サンタ」になることもできますが、きっと子どもたちのために手を差し伸べてくれるひとがいるはずだと思ったので、「私と一緒に大人サンタになってくれませんか」とインターネットで募ったところ、19名から総額20,000円(理事長サンタ分を含む)が集まりました。
もともとは3,000円くらいと職員に聞いていたのですが、あっという間にこの金額になってしまったので締め切りました。クリスマス会の当日、会場にはたくさんの苺が乗ったケーキやケンタッキーフライドチキンなど、クリスマスらしい食べ物が並んでいました。
子どもたちからは御礼状をもらったのですが、そのなかには実際に会ったことがない協力してくれた大人への感謝のみならず、将来は自分も「大人サンタ」になれるように、というメッセージもありました。
先に述べましたが、彼らは大人に甘えること、頼ってみることが上手でなく、心の中に希望を飲み込んでしまう傾向があります。それでも今回のように甘えることができるようになり、甘え方にも工夫が凝らされるようになりました。このような経験の蓄積が、何かあったときには周囲に頼ることにつながるのだろうと考えています。
子どもたちにはもっともっと大人に甘え、社会に頼ってほしく、それに応えられる自分や社会でありたいと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか