若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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初めての経験を
~先輩から話を聴こう~
工藤 啓(くどう・けい)
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2020年は大きな変化の年でした。誰もが新型コロナウイルスの影響、感染予防と向き合うなかで、多くの「初めての経験」をしました。そして、いまもしているところです。
私は前期に日本大学、後期に東洋大学で非常勤講師として学生に教えています。今年度は一度も大学に行くことなく、オンラインで授業を行っています。これも初めての経験です。
学生もすべての講義をオンラインで完結させるというのは、一部のひとたちを除けばほとんどが未経験の生活だったのではないかと思います。
特に一年生は入学してから一回しか大学に足を運んでないひともいます。いまは週に一回や、期間に何回か大学に行きましたという学生もいます。それは進学したひとだけでなく、就職を選択したひとも同じですね。とにかく、これまで経験したことのないことばかりで、誰もが戸惑いのなかで日常を過ごしています。
これから先の未来がどうなっていくのかは誰にもわかりません。しかし、昨年度に高校を卒業したみなさんの先輩は、大きな変化のあったいまの社会で新生活をスタートさせたことを経験しています。これはとても貴重な経験です。
彼ら、彼女らから聴く話は、私自身も非常に勉強になっています。入学式も十分なオリエンテーションもないなか、大学で教科選択をするためのポイントは何か。新しい場所、新しい学校や職場で、顔を合わせることなくつながりを作るときに意識したことはどんなことか。もっと言えば、改めて4月に戻れるとしたらどんな準備をしておいたらよかったと思うのか。
これに実体験をともなってアドバイスできるのは、まさに昨年度卒業したみなさんの先輩に他なりません。
ある大学一年生は、毎日自宅で講義を受けて、課題をこなすだけで一日が終わってしまう。友だちも最初はどう作っていいのかわからなかったと言いました。そこで、「いまはどうされてますか?」とお聞きしたところ、隙間時間に同じ講義を取っていた友人とオンラインで情報交換したり、他の大学に通っている仲間をアルバイト先で作っているそうです。他者とのつながりが自然にできづらいため、積極的に(安全な範囲で)外出し、コミュニケーションを取るようにしているそうです。
また、別の大学一年生は、仮に来年度も同じような環境だとしたら、履修科目をうまく選択して、自由になる時間をまとめて取れるようにしたいと言っています。
例えば、朝から夕方まで細切れで講義を入れるよりは、朝から詰めていって夕方以降は自由な時間を確保できるようにするというものです。講義と講義の間に休憩時間を作っても、結局、自宅で過ごすだけなので、寄せた方がいいのではないかという判断です。
一般的な高校だと時間割はすでにできあがっているわけですが、進学後は自分で組み合わせを考えていくことになります。
これまでは大学のキャンパスにいることが前提でした。しかし、今年度の一年生は初めてキャンパスにいることのできない経験をしています。彼ら、彼女らの助言は非常に貴重ですので、戸惑いや不安だけではなく、「では、どうしたらよかったと思うのか」といった部分も聴いておくことで、気持ちの準備や環境設定もできるのではないかと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか