そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏によるエッセー

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初めての経験を
~後輩に経験を残そう~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

私は、講演活動や大学での講義、日常の営業活動など、多くの時間を「移動」に費やしてきました。2019年のスケジュールを見ても、外に出て動いていることが仕事の多くを占めています。いまはほとんど電車に乗ることがありません。

最後に飛行機に乗ったのが去年の2月で、沖縄の少年院に伺いました。4月以降は、ほとんどすべての活動がオンラインになりました。自宅と会社は自転車や車で移動しています。ざっと調べてみたところ、2020年度に入って約8か月で乗った電車の数は7、8回です。

当然、来客数も減りました。他の事業所の職員と会うこともなくなり、対面して話す機会はとても限られたメンバーになっています。これは「初めての経験」です。移動が苦痛だったわけでもなく、いまでも対面して話をすることが好きです。

仕事の効率や時間的余裕の観点から考えれば、対面しなくても支障がない部分もわかってきました。一方、仕事は仕事だけで完結するものでもなく、なにより仕事を通じて新たなひととのつながりが豊かになる機会は減っているように思いますし、とても残念です。

私は、働くことや生活することに困っている若者や子どもたちと社会をつなぎ合わせる仕事をしています。対人支援の分野ではひとのつながりをとても大切にしています。コロナ禍のなかでも、できるだけ対面可能性を残したいと思います。しかし、オンラインだからこそできることもあるはずです。

例えば、遠くに住んでいる若者と毎日会うのは大変です。しかし、インターネットを使えばすぐにつながれます。北海道と東京、大阪と沖縄の支援者同士で研修しようとなったときも、お金や時間をかけずに行うことができます。

これまで対面が当たり前だったところに、対面とオンラインのどちらがよりいいかという選択肢が生まれました。この対人支援の分野における「初めての経験」は、いつか誰かの、何かの役に立つのではないかと思い、資料や動画という形にして公開するようにしています。

例えば、こんな感じです。
育て上げネットにおけるオンライン支援の現状(2020年5月28日収録)

サムネイル画像をクリックすると動画が再生されます。(音声が出ますのでご注意ください)

当日は全国から100名ほどのひとたちがライブ配信に参加しました。YouTubeでこれを見て、自分たちもオンラインで支援したいのだけれど相談させてほしいという問い合わせが結構来ます。

みなさんも、たくさんの「初めての経験」をされているはずです。高校三年生であれば高校三年生として、高校一年生であれば高校一年生として、過去の高校生が経験したことのないことを経験した初めての世代です。過去から学ぶことができなかった分だけ、さまざまなことに戸惑ったり、怒ったり、逆によいところを見つけたりしたはずです。

みなさんがこの一年で経験していることは、みなさんより上の世代が経験できなかったものです。来年、高校二年生は高校三年生になります。中学三年生は高校一年生になります。同じような戸惑いに彼ら、彼女らも直面するかもしれません。だからこそ、みなさんが日々の生活のなかで経験したことを、後輩たちのために伝え、残してほしいと思っています。

想定できない環境変化のなかで見つけたちょっとよかったこと、戸惑ったけれど解決できたこと、いまもどうしたらいいか模索していること。すべての経験が私たちの社会にとって初めてであり、だからこそ次のひとのために残せるものは残し、伝えるべきものは伝えていくことが大切です。

誰の、何の役に立つかはわかりませんが、私たちが過去から学べることが少ない変化だからこそ、私たちはこれからのひとたちのためにやれることをやりたいですね。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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