そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏によるエッセー

126-1

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あいまいな不安のなかで
~言葉にしてみる安心感~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット 理事長
工藤 啓(くどう・けい)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

明日、学校がどうなるのか見通しがつかない。毎日のように流れるコロナ関連のニュース、不安をかきたてるような話が続きますね。私も「自分の仕事だけでなく、子どもの学校や保育園が翌日にはクローズするかも」、そんな不安とともに生活をしています。

受験生にとっては、誰も経験のしたことがないような環境で試験にのぞまなければなりませんし、来年、再来年に受験や就職を控えているひとにとっても、先行き不透明ななかで日常を過ごされていると思います。

大学や専門学校では、授業がリモートになっています。学校によって違いはありますが、これまでと同じようにすべて対面で学習するというのは難しい状況です。会社や業種にもよりますが、同じようにリモートワークが少しずつ広がっています。

ひとのふれあいが制限されるなかで孤立感を深めたり、ときに不安から病気になってしまうひとたちもでてきています。私もほとんどリモートワークですが、話すテーマが決まっているからビデオ会議やチャットでコミュニケーションをすることが多いです。

一方、ちょっとした、どうでもいい、何のためでもない話をする機会が自然に減りました。このようなときだからこそ、できるだけ意味のない話をする機会を作っています。そこで感じるのは、誰もが不安とともにあり、それを言葉にすることで少なからず元気に、前向きになれるということです。

いま私たちが抱えている不安は、ひとりで何とかできるようなものではありません。もっと言えば、話をしたから解決できるものばかりではありません。むしろ、話したところで目の前が開けるようなものの方が少ないでしょう。

そこでは、「保育園が閉じてしまったら、自宅で仕事しながら子どもは見れないよ」とか、「買い物にでかけたときにマスクを忘れてしまい、どう見られているのかちょっと怖かった」という話をします。

「あぁ、それはある」「私ならこうするよ」という返答をもらうと、自分だけではなくみんな同じなんだなと安心します。また、自分が思いつかなかった方法で困りごとを乗り切った話を聞くとほっとします。

よくよく考えてみると、これまでは何気なくしていた友だちや仕事関係のひととの会話は、直接的に意味がなくても、自分自身の考えを受け入れてもらったり、それに対して反応してもらうことが、不安を安心に変え、緊張感を和らげてくれたのだと感じます。

このようなことが自然に発生しづらくなったことは受け入れなければなりません。逆に考えれば、自分から意図的に誰かに声をかけ、互いにどうでもよいことを言葉にしてみることで、自分の、そして誰かの安心を作ることにつながります。

あいまいな不安も、言葉にすることで不安の正体が見えてきます。あいまいさが明確になることで、不安の内容が理解できるようになります。不安は誰もが抱えるものですが、その「あいまいさ」が、私たちを戸惑わせているのかもしれません。

精神科医の斎藤環先生は、ひととひとのつながりによって気持ちが回復する状態を「ひとぐすり」と表現しました。薬は怪我や病気のためだけにあるものだけでなく、不安や戸惑いを和らげる「ひと」という薬があり、私たちは自分のため、誰かのためにその「ひとぐすり」を使うことができるのですね。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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