そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

131-1

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知らないことと向き合う
~苦手は本当に苦手なのか~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山崎 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

昔から運動が苦手で、体育の授業がある日は憂鬱でした。明確に「あなたは運動が苦手な人ですよ」と言われているようで、しんどかった思い出が多いです。

高校3年生の冬、「最後だから好きなスポーツをやっていいよ」という先生からの提案に、私たちはソフトボールを選びました。私たちというか、野球好きのクラスタ(集まり)があって、彼らの意見が通りやすいクラスでした。

個人競技は「自分がダメだ」で済むけれど、チームスポーツは周りにも迷惑をかけてしまうこともあって、校庭までの足取りは余計に重くなります。大学受験も佳境で、ただでさえストレスが多くて、恨み節は絶えません。

− バットが白球に当たらない
− キャッチができない
− 送球はままならない

あぁ、やはり運動は向いてないなとへこむ日々を変えたのはあるマンガでした。

ひぐちアサさんが書かれている『おおきく振りかぶって』(講談社)をご存じでしょうか。

繊細に描かれる心理描写が魅力的な高校野球をテーマにした作品です。その作品のおもしろさはもちろんですが、今回話題にしたいのは、巻末などに描かれた野球の基礎知識です。

バットの握り方、スイングのときに意識すること、白球の軌道をどうやってみるのか、体の使い方…。

私はハッと気づきました。野球のこともソフトボールのことも、誰も教えてくれなかったということに。

「バットを振る」という行為はできます。でも、白球に当てて、遠くへ飛ばす…という方法を「知らなかった」のです。

不思議なものです。憂鬱だった時間の見え方は一変しました。なにせ当たらない前提で立っていた打席が楽しみになったわけですから。

たかが授業で大げさなと感じられるかもしれませんが、全日制の高校を卒業するには体育を週2、3回やらないといけません。毎週2、3日の避けられないストレスが無くなるってすごいことだと思いませんか?

「苦手」だと思っていたことは「知らない」のが原因でした。

極端かもしれませんが、運動への苦手意識もだいぶ薄れて大人になってからフルマラソンにも挑戦しています。

大抵のことは「知識」としてまとめられています。今はスマホがあるので当時以上にたくさんの情報を取り入れることができるはずです。

歴史をさかのぼれば、ソクラテスが「無知の知」という言葉を残していますが、Phillip G. Armourという方が発表している論文ではこの「知らない」という状態には段階があるとされています。
(※The Five Orders of Ignorance,2000/英文)

この論文によれば、私のスポーツへの苦手意識は「知らないことに気づいていない」「知る方法を知らない」という段階です。これは5段階のうちの下から2番目。

この段階を抜け出す方法には、誰かに相談したり、話してみることとされています。

誰がどういう情報を持っているかはわかりません。まずはさまざまな方法で聞いてみるのが大切です。私の場合は、たまたまマンガが教えてくれましたが、なにがきっかけになるかはわかりません。

7月を迎え、最終学年にある方は将来や進路のことを決めていく時期だと思います。ただ「決めろと言われて決められるものでもないよ」とも思います。

もしかしたら、その悩みは、あなたの周りの人が将来の選び方を教えてくれなかっただけかもしれません。まずは周りの人といろいろとお話をしてみてはいかがでしょうか。それを教えてくれるのは必ずしも人の形をしていなくて、マンガや書籍かもしれません。

もし「働く」という点で悩んでいるのなら、将来のことを考えることを仕事にしているキャリアコンサルタントという人がいる支援機関に行ってみるのもおすすめです。

「知らない」のは、あなたの責任ではありません。たまたま教えてくれる人がいなくて、そういうイベントが発生しなかったためです。自分を責めることなく、周りを頼ってみてくださいね。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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