若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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思っていたのと違うとき
~自分を取り戻すためのきっかけ~
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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緊急事態宣言が解除され、少なくともこれを書いている10月末はずいぶんと落ち着いた日々を感じています。
先日、育て上げネットでは地域の広場を活用したイベントにブース出展しました。人が往来するところでの活動は実に1年半振りになります。
人混みができるような規模ではありませんが、ふらっと私たちのブースに訪れてくださった方とお話しするのは妙に新鮮です。
私はもともとインドアな性格なこともあって、活動が制限される前後であまり変化を感じていなかったのですが、実際にこうして活動量が増えると、自分が「できなくなっていた」ことがあったのだと自覚します。
育て上げネットではさまざまな方からの相談を受けています。その年齢、住まい、困りごともバラバラです。そのなかには「ひきこもり」と呼ばれる方もいらっしゃいます。家から出られない状況にあったり、近所のコンビニに行くことはできるけど社会参加には抵抗を感じている方のことです。
かつて「ひきこもり」を経験された方にインタビューをしたことがあります。そのときに、回顧して話されていたことが強く印象に残っています。その方はひきこもっているときは「自分の頭のなかで自分と会話していた」とおっしゃっていました。
友人や会社の同僚、親戚や家族。そうした人たちとのコミュニケーションが減って話ができないでいるとき、話し相手は自分しかいなかったのだそうです。1人2役とも違います。アニメによくある、内なる天使と悪魔がささやくようなそれとも違います。
早朝きこえてくる登校する子どもたちの声、パキっとスーツを着こなすビジネスマン。そんな社会のなかに溶け込んでいる人たちと対比した自分の状況。
こんなの望んだ現実じゃない。そう思ってもあるのは「ひきこもる」現実。自分はあの社会のなかにいない、ダメな人間なんだ⋯。
望まない自分を傍観するように反芻しては「ダメな人間」と烙印を押すのを繰り返している。それを「自分の頭のなかで自分と会話している」とお話しされていました。
これを読まれている方のなかには大会や行事が中止になったことで、努力を結果にする場を失い、また、期待した青春ではない学生生活を強いられた方も多くいらっしゃると思います。私たちのところには、どうしようもなかったことと頭ではわかっていても、そう簡単に割り切れず相談にいらっしゃる方も増えています。
学生の場合は「ひきこもり」ではなく「不登校」や「休校」という別の言葉を使われますが、同じように、ご自身の責任ではないことを自覚していても、どこにもその責任をぶつけることのないまま悩まれているようです。
まったく状況は違うので重ねて話すのは失礼な気もしますが、私が先日のイベントで感じた「できなくなっていた」ことは、本来の自分自身を取り戻していくようなきっかけだったように思います。できることを思い出すと選択肢も広がっていきます。
もし、これを読まれている方で、どうすることもできない閉塞感や不安を感じておられる方がいましたら、私たちはもちろん、さまざまな相談ができる場所があるので利用してみてください。
最近はLINEで匿名相談もできます。相手がいる場所で相談するのに抵抗がある方はまずはAIのチャットボットで調べてみることもできるので、こちらも参考にされてはいかがでしょうか。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)