若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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ひとりで悩まないでと声をかける理由
~ミステリーと若者支援の共通点から~
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
世界中にある多様な文化・芸能で描かれてきたストーリーのなかでも「ミステリー」は最も定番なジャンルのひとつです。エンタメとして楽しむとき、あえて深堀するようなことはあまりないと思いますが、ミステリー作品にはざっくりわけると3つのカテゴリーがあります。
ストーリーの中心、事件解決のカギとなる物事を指して「フー(Who)ダニット(done it?)」「ハウ(How)ダニット」「ホワイ(Why)ダニット」と呼ばれています。それぞれ「だれが、どうやって、なぜ」が追及されていくのです。
「ホワイダニット」が中心となる作品の場合、犯人は最初からわかっているけれど、なぜその犯行を起こしたのかわからないパターンがあります。ストーリーが進んでいくうち動機や理由が明らかになっていくので、その演出は力の入れどころでもあります。
それはさておき、この「ホワイダニット」は私たちが行っている若者支援の場面でも、とても大切な視点です。
私たちのもとに相談にいらした方の多くは「何か」に困っています。その何かは個々人によってまったく異なるのでここでは触れません。しかし、その困りごとを抱える経緯が必ずあります。
さまざまなことが絡み合っていて「どうしたらいいかわからない」と話される方も多いのですが、時間をかけてでも、その絡んだ紐をほどいていくうち、きっかけとなっていたことや理由がみつかっていきます。
多くのミステリー作品の場合、当人にとって理由は自覚的です。そうでないと話が進まなくなってしまうし、事件解明に至るヒントが出てこなくなってしまうからです。
しかし、私たちが相談でお話を聞いていくとき、ご本人はその理由にまったく気づいていないことや、自覚的であってもいままで保護者にすら話したことがなかった⋯ということもあります。
私はこのドリコムアイの原稿でも、別の講演会などでも「ひとりで悩まないで」とか「周りの力を借りることが大事」とお伝えしているとき、こういう「ホワイダニット」の探求がどうしてもひとりでやるのは難しいと考えていることも背景にあります。
自分のことをいちばん知っているのは自分なのはおおむね間違いないのですが、自分の知らない自分のことを教えてくれるのは周囲からの気づきだということも少なからずあると考えています。
若者支援とミステリーをリンクさせるのは少々不謹慎だったような気もするのですが、ミステリー作品において理由のない犯行が起きないように、若者支援においても困りごとにはその理由があり、その理由がわかれば、いまできることが見えてきます。
ひとりで考えているよりもさまざまな人の力を借りることで「ホワイダニット」は早く進むこともあるので、ぜひ、お困りの方は周りの力を借りてみてくださいね。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)