そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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SDGsと社会の変化
~自分ごとの視野を広げる~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

最近は「SDGs」がトレンドになっています。多くのメディアでその言葉が飛び交い、集計によれば企業のプレスリリース(情報発表)に使われたキーワードランキングで総合5位となり、月別では10月には2位まで上がっています。

ここでSDGsの説明を詳しくはしませんが、さまざまな視点からとらえられた世界の課題を17にまとめ、目指す「目標」が掲げられています。この目標はおおざっぱな設定がされていて、私たちのようなNPOの活動は、その目標のなかのごく一部を担っています。

ただ、もう少し視野を広げてみると、この令和の時代はこれまで類を見ないほど社会課題に目を向けているのではないでしょうか。コロナの影響や度重なる天災によって失われた日常。SNSで誰もが平等に情報発信ができるようになったことで、不公平・不平等だと広く情報が届くようになりました。SDGsという言葉のあるなしに関わらず、NPOという役割を担うかどうかに関わらず、多くの人が「社会」を考えている時代なのです。

やや昔話ですが、私は大学生のとき、新潟県中越地震の被災をした山古志村の最後の村長、長島忠美さん(ながしま・ただよし/故人)にインタビューをしたことがあります。当時所属していたボランティア団体で理事をされていた長島さんに、社会課題と向き合うことの意味を聞いたとき「テレビで被災した土地をみて、君は何を思う?」と聞き返されたことを思いだします。

インタビューは2011年の終わりだったか、2012年になっていたかのころで、東日本大震災の爪痕がまだ色濃く残っている時期でした。私が答えに悩んでいるうち、長島さんは続けて「テレビの先に知人や家族がいたら、キミはただの視聴者ではいられないはずだ。心配で電話をかけたり、できることを探すと思う。そういう感情を見知らぬ人にも抱くことができる社会になってほしい」と話をされていました。

震災で起きた道路寸断による孤立、全村避難、まだ未成熟だったメディアの対応などさまざまな不合理を経験してきた長島さんから出たその言葉の重みに、東北の被災地でボランティア活動をしていた私は、強く共感を覚えたことを記憶しています。

SDGsのアイコンは鮮やかな色合いで見栄えもよくできています。未来を感じさせるデザインになっているのは、社会課題の当事者が抱えている暗い所やつらい側面を出さないブランディング、意匠になっていることも印象的です。

そうしたSDGsの表面的なところからは、長島さんがお話しされていたような強い熱意やマインドは感じにくいかもしれませんが、SDGsが誓いとして掲げた「誰ひとり取り残さない」という標語は、やはり「見知らぬ人への心遣い」とリンクしていると私は考えています。

大学受験も終わりが近づき、また、4月からは社会人として働く方もおられると思います。社会は少しずつ変わりつつあります。依然として予断を許さない社会不安はありつつも、今までにない方向に前進しようとしています。

ぜひ、みなさんがテレビやスマホの画面の先にあるさまざまな社会のリアルに触れたとき、ひとりの視聴者ではなくて、巡りめぐって自分ごとにできるような関心をもてる大人になってくれたらうれしいです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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