そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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新しい環境・出会いで
変わるもの

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山崎 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

北京オリンピックはリアルな体験の連続でした。多くの競技で世界最高難度、人類未達の領域へチャレンジする選手の皆さんには感服するとともにパラリンピックも楽しみに待っています。

人類の限界への挑戦はさすがに難しくても、日々、自分にとってのはじめてのことくらいはチャレンジしたいと思っています。最近でいえば、コロナ禍で多くの業界に押し寄せた、日常の「オンライン化」はそれにあたります。

私たちはひきこもり・ニートなど、さまざまな困難を抱えている若者を支える活動をしています。いままで、ほとんどが対面で行われてきていたものを、そもそも会わずに同じことができるようにすることを3年ほどの間で強く求められてきたのです。

しかし、期待は裏切られました。画面越しのコミュニケーションに失望したあの気持ち。ずいぶんと大きくなったと感心していたスマホのディスプレイは世界をとらえるにはまだ小さくて、グループ通話で常に全員の表情が見えることにも人見知り気味の私には負担を感じさせました。

もしかするとリモート授業のとき同じような経験をされたかもしれませんが、どう考えてもビデオ通話が対面の代わりになるとは到底思えなかったのです。

ただ、悪いことばかりではありませんでした。失望しつつも他に方法がないからと、オンラインでのコミュニケーションを続けたことで、私たちが「支援」とか「相談」「カウンセリング」と呼んでいる活動を満足に行うために必要な要素が言葉にできるようになり、同時に、オンラインならではの出来事が増えていきました。

たとえば、チャットやエモート機能(キャラクターの動作などによる感情表現機能)には新たな希望がありました。「会話が苦手」な方も少ないのですが、言葉にするのは苦手でも、文章にするのはむしろ得意であったり、エモート機能を使ってのリアクションなら抵抗なくできた方もいらっしゃいました。

SNS全盛のいま、文章や画像だけのコミュニケーションがあふれている時代ですから、発話以外の関わりのほうが得意な方がたくさんいることはどこかでわかっていました。私たちは若者に寄り添って支援を行うということを大切にしているのですが、こうした変化をみると、まだまだ十分でないなと反省もしています。

たしかに、私たちが「オンライン化」に求めていたことは対面の代わりでした。ただ、活動を続けていくうちにその考えが誤りで、どちらにも良いところ、悪いところがあって、まったく別物なのだという感覚で両方をうまく使っていくことを目指しています。

最近、私たちはオンラインに足りなかった部分をバーチャルが解決するかもしれないと思い始めました。これもやっていくうちに期待していたことには届かなくて失望したりするかもしれません。ただその先には、想像もしていなかった結果や次の展開が見えてくるかも知れません。

3月は次のステージへの準備期間という方も多いですね。そして、新しい環境には、新しい出会いもあふれています。

「新しい」「はじめて」という経験には、苦しさやしんどさもあります。自分が期待していたものとは違うものかもしれません。ただ、そうした未知の経験が、今の自分からは考えられない新たな発見や可能性につながることを期待しています。

もちろん、そもそも自分に合わない場所もありますから、無理に受け止め続ける必要はありません。居心地の良い場所やまた別の新たな場所を求めることもできますから、つらいときには抱えることなく周りの力も借りてみてくださいね。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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