若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
142142
誰かを頼ることの
難しさ
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
これを書いているのは2月末になりますが、コロナの影響はもちろん、ウクライナへの軍事侵攻も起き、社会不安は募るばかりです。明日どうなっているかわからないとはこのことですね。
春の時期は私たちにとって、普段と比べて「これからどうしたらいいかわからない」と悩まれる方との出会いが増える時期です。進学するわけでなく、就職をするわけでもない。そんな方からの相談が増えています。
私たちは、意識があるかどうかは別に、何かに所属しています。学生の方は学校に、社会人なら会社に、サークルやクラブに参加していればそれも所属です。
何かに所属していると、役割や仕事があって、周りの人と関わる機会があります。こうした所属を失って極端にかかわりがない状態を私たちは「(社会的な)孤立」と呼んでいます。
春は出会いと別れの季節なんていうこともありますが、特に学生の方にとって出会い(進学・進級・就職)が決まっていればまずは一安心。でも、別れ(卒業)だけが決まっていて、この先が見えないと困っている方もおられます。
学校というのは卒業してしまうと、あなたを支える役目が終わります。そうなったとき、次に何を頼ればいいのだろうと困ってしまいますよね。もちろん、保護者や周りの大人が親身になってくれるなら、まずはそういう頼りやすい大人に話を聞いてもらうのが良いと思います。
ただ、そうした大人もあなたの周りにいなかったとき、私たちのような支援機関の存在がいます。でも気は乗らないと思うんですよね。こういう活動をしている身として、こんなことを言っていいのかわかりませんが、頼る相手がいないからといって「じゃあ相談してみよう!」と私自身、短絡的にはならないです。
自分は周りとは違う、保護者にも迷惑をかけてしまっている⋯と自身を責めたくなるし、自分が悪いのにさらに周りに責任を負わせたくないなぁ⋯などと思うと、誰かに相談しようという気持ちはわいてこないのが正直なところです。
実際、相談にいらっしゃる方も、まずは自分でできることを試してから相談にいらっしゃいます(3、4月にご利用される方は学校の先生からお勧めされてくる方が多いですね)。自分でできることというのは、ネットや求人情報誌で情報を集めて自分なりに就活をするようなことです。もちろんそれでうまくいけばOKです。
あなたの人生の岐路を決めるタイミングが周りの人と同じでなければならないルールなんてありませんし、私も大学を卒業してから就活を始めたので多少の時間差はなんでもないと思っています。
ただ、自分だけではうまくいかなかったり、応募する勇気がでないとなったときに、支援機関を視野に入れてみてもらえると嬉しいです。支援機関に行くと就活を進めなければならないと思われがちなのですが、必ずしもそんなことはありません。
すぐに働いて、経済的に自立しなければならない方は、求人情報を検索できて、紹介(あっせん)もしてもらえる「ハローワーク」が全国的に設置されていておすすめです。地域によっては若者年代の方のための「新卒応援ハローワーク」や「わかものハローワーク」があります。
自分で就活をしていて、あまりうまくいかず、自信が持てなかった方には「地域若者サポートステーション(サポステ)」というものがあります。こちらは求人の紹介(あっせん)はありませんが、自己理解や履歴書の書き方のような基本的なところから始めることができます。
サポステやハローワークは都市部や繁華街に設置されていることが多く、すぐに行ける距離にないという方は、オンラインでの支援プログラムもあります。育て上げネットでいえば「アトオシ・オンライン」というものを最初はおすすめしています。ある程度時間をかけて、スキルを身につけたい方には「ステップ・キャンプ」も用意しています。
周りを頼るというのは、言葉にするのは簡単で、できるひとにとっては当たり前の行為のようなのですが、前に書いたように自分で自分を責めているときに、それを周りにまで伝えるのは勇気のいる行為です。
私たち支援機関の残念なところは、そんな勇気のいる最初の問い合わせを本人にお任せするしかないことです。あなたがどれだけ困っていたとしても相談をいただくまで、なにもできないのです。学校の先生や会社の上司のように「ちょっと気にかけておこう」「休み時間に話しかけてみよう」と目をかけることができないのは申し訳なくもあります。
もしあなたがこの先、所属する場所がなくなって、これからどうしたらいいのかと悩まれたとき、私たちはあなたからの相談を待っています。それが一時的な、短い間だけでもあなたが所属できる場所になれたらと連絡をお待ちしていますので、すこしだけ勇気を出してご一報いただけるのをお待ちしています。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)
■認定特定非営利活動法人 育て上げネット
https://www.sodateage.net/
■新卒応援ハローワーク 一覧(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000184061.html
■わかものハローワーク・わかもの支援コーナー 一覧(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000191617.html
■地域若者サポートステーション(サポステ)
https://saposute-net.mhlw.go.jp/