そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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「五月病は言い訳」と
先生に言われて

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山崎 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

みなさんは「五月病」という言葉にいつ出会いましたか?

私は中学生のころだったか、先生が「五月病なんて言い訳してずる休みするなよ」と朝の会でおっしゃったときでした。本当にそのときが初めてだったかと言われれば、そんなことないのでしょうけれど、そんなものがあるのかと意識したのはこのときでした。

埼玉県にある久喜図書館が調べたレファレンスによると、日本でこの言葉が使われるようになったのは1968年ごろのようです。図書館はこういうことも調べてくれます。

このレファレンスを参考にすると、受験アドバイザーで精神科医の和田秀樹さんはこう記したそうです。

5月になると、(中略)うつになるという状態が「五月病」と呼ばれて、実は50年近くたつ。もともと受験競争が今と比べものにならないくらい厳しかった1960年代半ば(団塊世代の大学受験期)に、激しい受験競争を終えた後の虚脱感や抑うつ気分を指すもの(『週刊エコノミスト』2012年5月22日号)

どうやら比較的新しい言葉のようです。当時は、今でいうところの「燃え尽き」に近い表現だったようですね。

試しに「五月病」をGoogleで検索すると進学だったり就職だったり、さまざまな変化がストレスになって体に出てくる──という説明が今は多いようです。受験を頑張った反動からくるものから、そのあとの環境の変化に慣れるまでの心身の負担へと原因の捉え方に変遷はありそうです。

話は変わりますが、私たちは普段、ひきこもりや、ニートと呼ばれる方々の支援活動をしています。彼らは誰ともつながりを持てず孤立していることは共通しています。ある方は高校に進学したゴールデンウィークあけの5月上旬、急に学校に行けなくなったと教えてくれました。

中学時代、いわゆる陽キャな存在で、精神的にもタフ、ちょっとしたことには動じないと自信がある人でした。それが、ある朝、起きられなくなってしまった⋯。

「自分がこんなふうになるなんて思っていなかった」と振り返っていました。自分のなかにある「弱さ」のようなものを初めて知り、受け入れるのに苦労をされていたようでした。

たくさんの、さまざまな悩みを持つ方々のお話を聞いていると、やはり五月病は言い訳などではなく、頑張りすぎて疲れてしまったら充分に休むことが必要なんですね。「言い訳だから」と無理する方がむしろ体には悪いです。

私自身は「五月病は言い訳」という言葉が抜けないもので、こんなことを書いていても自分がしんどくなると「いやこれは言い訳だ⋯」なんて思ってしまっています。子どものころの刷り込みというのはそう簡単に変わらないものですね。

でも、自分がそうだからといって、これを読んでくださったみなさんに同じ言葉をかける気にはとてもなれません。だって「無理しろ」なんて書いている医者もカウンセラーもいないのですから。

新しい環境に身を置けば「知らない自分」や「知らない世界」が待っていて、たくさんの「出会い」を体験しているはず。それはとてもエネルギーを使うことですから、どうか無理することなく、お休みをとってくださいね。もし、あなたの周りに辛そうな方がいてお休みしていたら「それでいいんだよ」って共感できるような存在であってほしいと願っています。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか

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