若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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学校の成績≠あなた自身
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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カレンダーの前で座り込み「ついに、ことしもきたか⋯、ああ。」とボヤく小学5年生の男の子が衝撃的なことを教えてくれました。
「ぼくのいちばんきらいな六月! 一年をつうじて、もっともふゆかいな六月!」
「六月には、国民の祝日が一日もないんだぞ。」
ドラえもんの『ぐうたらの日』というお話の一節です。
どうしても休みが欲しいのび太は“日本標準カレンダー”というひみつ道具を使って、誰も働いてはいけない祝日「ぐうたら感謝の日」を作るのですが想像もしていなかったピンチが訪れます。
——6月には休みがない。
こんなに重要なことを私が知ったのは中2のとき。みんなには「そうだよ」と真顔で反応される始末。日常には知らないことがあります。
話は変わりますが「非実在性」という言葉があります。
あなたがこれを読んでいるスマホかパソコンか⋯それは確かにそこに存在しています。でも、あなたが寝ている間、それが同じ場所で同じように存在しているか、私たちは証明する方法がありません。
誰もいない部屋でおもちゃが動き出す⋯あのトイ・ストーリー的なことが現実世界でおきる?
そんなことありえないと思うかもしれませんが、ありえないと証明ができないというのが非実在性という考え方です。
「6月には祝日がない」ということをのび太に言われるまで、私にとってその事実は存在していませんでした。十数年も生きてきて、カレンダーもさんざん見ていたはずで、祝日のない日々を経験してきたはずですが⋯。知ってしまったばかりに6月はちょっと憂鬱さを感じるようになりました。不思議なものですね。
さて、6月上旬というとだいたい中間テストが終わって、成績表も受け取って⋯という時期かと思います。その結果に一喜一憂することもあるでしょう。
テストというのは、指定されたルールのなかで問題を解いて、それが数字になって見えるということ。似たような境遇の人たちとの比較をしやすくすることでもあります。あえてそこまでするのだから、おのずと今の自分の存在が浮き彫りになってしまいます。
そうして「自分」を見つめることが多いこの時期。この瞬間、見えているものだけで自分の価値を決めようとしていませんか?
使い古された言葉ですが、成績の良し悪しはあなたの価値を決めるものではありません。もしかするとみなさんの方が、SNSや探求の時間を通じて、より敏感かもしれませんね。勉強ができたからといってフォロワーが多いわけではないですし、逆に人気YouTuberであっても学校のテストで好成績になるわけでもありません。
「ぐうたら感謝の日」なんて、おふざけの祝日を作ってしまうのび太は、学校の成績はさんざんで、うまくいかないことも多いです。でも実は銃の扱いは宇宙一。どんな時空のガンマンにも負けません。どこにどんな才能があるのか、それは学校だけでは測れません。
自分の得意なことをみつけるには、いろいろなことを試してみることが大切です。のび太も銃を握るまではこんな特技に気づくことはなかったでしょう。そして、もうひとつ重要なのはそれが「すごいことだ」と評価してくれる周りの人です。
私たちの支援活動にはそうした「周りの人」の役割もあります。ひとりだけのチャレンジは心もとないなというときには、ぜひ私たちのような存在もうまく使ってみてくださいね。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)