若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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誰かを頼りたくても
頼れないとき
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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私がいまの仕事をはじめて8年ほど経ちました。小学校の6年間が人生でいちばん長いキャリアだった私の継続記録は、現在進行形で更新しています。
想像がつきにくいかもしれませんが、高校や大学を卒業して就職した人が3年以内にその仕事を辞めてしまう割合は30%以上です。あなたの学校のクラスをイメージしてみてください。30人のクラスなら10人は辞めてしまう計算です。
もちろん、これは数字でしかなくて、ひとりひとり事情が違います。うまくいかない職場を離れたい方もいれば、結婚や出産などで人生の価値観が変わった人だっています。私が実際に周りをみている限り、必ずしもネガティブな人ばかりではありませんし、そもそも同じ職場で長続きすれば良いというものでもありません。
ただ、やはり辞めたくてそうなっている人ばかりでもないのです。高校を卒業した方に限定すると、3年以内に仕事を辞めた方の半分以上は次の仕事が決まっていない状態というデータもあります。
学校や職場との接点を失って、次にやることも決まっていない⋯。私たちは、そんな社会とつながりがない状態の方のサポートをしています。
そうした活動のなかで最近、大きく変わったことがあります。オンラインで相談を受け付けるようになったことです。
新型コロナが広がる前、わたしたちはほぼ100%、顔を合わせて対面で支援を行っていました。オンラインの選択肢がなかったわけではありません。対面での支援が最良だと信じていたからです。
実際にやってみてよかったなと思うのは、利用した方が便利さを感じていたことでした。
いわゆる「ニート」と呼ばれる状態の方にとって、日中に外に出ることを苦痛に感じておられる方もいます。みんな働いていたり、学校に通っているのに自分にはそういう目的や居場所がないことを辛く感じておられたのです。働いていないことで経済的に苦しい方は交通費や外食代が重荷になると躊躇されている方もいました。
オンラインはそういう、私たちが「このやり方が良い」と考えていたことが、実は困っている方々にとっては負担になっていたことを明らかにしていきました。
コロナウイルスの感染者数が減少傾向にあり、政府からもマスクの着用についての見解がでてくるなか、また以前のような生活を取り戻す日も近いように感じています。
オンライン支援を始めた当初は、対面での活動の「代わり」くらいの認識でいましたが、いまはどちらにも良いところ、悪いところがあり、その選択は私たちではなく、困っている方々にゆだねるものだと考えが変わっていきました。
仮に私たちがマスクをすることなく出会い、会話ができるようになっても、オンラインでの支援をやめることはないでしょう。
誰がいつ、どんなふうに社会とのつながりを失うかわかりません。無いことを願いますが、もし、あなたがそうして困りごとを抱えたときには、私たちのような支援団体がいることを思い出していただけたら嬉しいです。
この6月の後半の時期というのは、年間を通じると相談をいただくことが比較的少ない時期で、夏休み以降になると増えていきます。そんな折、このような私たちの活動について知ってもらいたいと思い書いてみました。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)