そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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「発見される」努力
~見つけてもらうための活動②~

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

前回、ひきこもりやニートと呼ばれる若者に、私たちのような支援団体を知ってもらう方法について考えてみました。

そのなかで、そもそも調べるという行動すら念頭にない方にも、私たちのことを知ってもらうにはどうしたらいいのか⋯という問いを残していました。

これにはいくつかの手段がありますが、シンプルな手段はマスメディアに載せていただく努力がひとつあります。自主的に調べることがなくても、本人の意志とは関係なく、ふとした出会いもあるでしょう。最近ではテレビや雑誌への露出にかぎらず、SNSでバズるのも、その一環です。

ただ、これはいつでも簡単にできることではありません。メディアの協力も必要ですし、狙ってバズらせるのは技術がいることで期待通りの反応を得られるわけでもありません。

「調べる」以外の手段に期待する、という視点は応用が利きます。具体的には、フットサルイベントを開催しています。実際に支援をしている若者から「スポーツだったらやりたい」という希望に応える形で小規模に行っていましたが、現在は参加者に条件をつけず、だれでも参加できるようになっています。

ちなみに「調べる」行動をとらない方のなかには、あえて調べないという方もいます。

私自身も共感するところがありますが「支援」という言葉から受けるニュアンス、誰かに助けを求める、助けてもらうことに忌避を感じるのです。自己肯定感が低いと、自分は助けを求めるに値しないと考える方もいますし、そもそもどこの誰かもわからない人を頼るのはとてもハードルが高いことです。

そうして支援を求めていない方でも、自分のやりたいこと、できそうなことであれば関心を持つことができ、エネルギーが内から湧いてくるのだそうです。「支援をする/される」という関係ではなくて「フットサル仲間」から始める方法を確立しています。

他にも、「支援しない日」を設定しています。いわゆる支援と呼ばれるのは、具体的には支援員との相談やグループワーク、仕事体験など、悩みや不安に思っていることの解消など、目的のある活動です。そうした目的を設定しない日を意図的に用意するのです。

特になにをやるという目的やスケジュールはないので、開放されているスペースで好きに過ごすことができます。集まった人同士でゲームをしていたり、自分の趣味に没頭している方もいます。

この取り組みを聞いて、詳しい方は、それっていわゆる居場所支援でしょ? と思われるかもしれません。違うところがあるとすれば、「だれでもウェルカム」だということ。参加する方は必ずしも「困っている」必要はなく私たちが支援対象としていない方も参加できるようにしています。開放されたスペースにたまたま、悩みを抱えている若者もいる⋯そうした空間の提供をしているのです。

視点を変え、私たちの業界の常識とは真逆のベクトルを突き進んで、今までとは異なる出会いが増えるほど、若者は困ったときに「調べる」という自主的な行動をとってくれて、適切な答えにたどりついてくれるだろう⋯と、勝手な期待をしているなと反省します。

思えば、ここまで若者が「調べる」ことを念頭に置いていましたが、私たちが若者のことをどれだけ「調べる」ことができているでしょうか。彼らのことを理解するのに、自分の既知の方法論や言葉だけではたどり着けないとしたら、あなただったらどんな方法を考えますか?

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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