若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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「困っている」若者の存在について
~私たちが支援を始めるまで~
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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いま、誰かに「なにか困っていませんか?」と聞かれたら、悩むことなく「困っています」と答えられます。自信というのは変なところに芽生えます。
子どものころは、あんたは相談しないでそうやって勝手に⋯といわれ、大学生になってからも人を頼るのが苦手ねといわれ、とにかく自分が抱えたものを人に渡すのがつくづく上手くない性格なのだと思います。
私たちは、ひきこもりやニートと呼ばれる社会から孤立した若者を支える活動をしていますが、話を聞いていると、どうも近しい性分を感じるのです。誰かの力を頼ったほうがきっと少しはラクになるんじゃないかな⋯。傍から見ると、そう思えても、ご本人はそれほど困っていないなんてこともあります。
「困っている」というのは難しいものだなと思います。辞書で調べると「ある物事をどう判断・処理してよいかわからず悩む」と出てきました。
支援団体にいる私が知る限り、多くの方はやはり困っています。私たちの調査では、利用した方の79.9%が当初、どうしたらよいかわからないと答えていて、その点については相違ないのではないでしょうか。
さて、先ほど辞書を調べて当たり前のことに気づきました。「困る」には程度があって、限界までいくと「困り果てる」のです。
8年も若者支援の領域で活動をしていると「支援機関への相談」が選択肢にあがってくるのは、困り果てたころだというのを察するようになります。
仕事が積もりにつもって、どこから手をつけたら終わるのだろうかと困り果てている私もやはり、もっと早く周りのスタッフに手伝ってもらえることがあったなぁ⋯と、ばつの悪い気持ちになりながら、ぽつぽつと相談を始めます。
私たちのような支援団体や公的な支援機関の多くが「困っている人」を支援しようとしていますが、本人にその自覚がなければ、その方と私たちがつながることはないのです。そして、意外にも無視できない割合で「困り果てる」まで悩みを抱えている方がいらっしゃいます。
だらだらと書いてきてしまいましたが、実は私、とある場所で「なぜひきこもっている人をわざわざ外に出すのですか?」と質問をされ、その答えを模索しています。
ここまで個々人の性格や課題、実情を書き並べてきて、いくらでも回答を用意できることはわかっていただけたと思います。他にも社会的な側面の課題も多々あります。しかし、この質問をされた方が合点のいく回答⋯つまり「なぜ外に出すのか」という問いに、どうにも理屈らしいことを求められている印象は無かったのです。どうしたらこの質問に寄り添えるでしょうか。
※次回に続きます。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)